杉浦さやか氏は、旅行や散歩、おしゃれなど、暮らしの楽しみ方をテーマにしたイラストエッセイで活躍している作家だ。同世代を中心とした女性たちに圧倒的な人気があり、このジャンルではトップクラスの売上げを１０年以上保ち続けている。人気の秘密は、ていねいなイラストとユーモアあふれた文章の絶妙なコンビネーション、そして何より親近感の持てる著者のキャラクターであると思う。彼女の作る本は、憧れの人が描く素敵なライフスタイルのための教科書ではなく、センスのよい友達からもらう絵手紙に近い。表現される「かわいい」の世界観に、笑ったり、和んだり、時にはちょっと感動したりして、読み終わると著者に語りかけたくなってくるような気持ちがしてくる。この魅力を、男性の皆さんにも知っていただきたい、と常々感じていたので、あえて「図書新聞」という大人の男性読者が多そうな渋い媒体で紹介させていただきたいと思う。
　このたび刊行された『レンアイ滝修行』は、今まであまりプライベートな部分を語ってこなかった著者が、自分の人生をテーマにした初めての本である。３０代独身の著者が結婚を決意し、雑誌の企画でさまざまな婚活を行なった後、「運命の王子様」と出会い、結婚に至るまでの日々が描かれている。山で滝に打たれたり、占いやセミナーに行ってみたり、田植えツアーに出会いを求めたりなど、失礼ながら若干ピントがずれているような気もする婚活の模様が描かれた前半部分は、心の中で時々ツッコミを入れつつ楽しく読んだ。友人たちの出会いと結婚が書かれた「なれそめコラム」には、心温まりつつも人生を考えさせられる。趣味のこけしがきっかけとなって年下の占い師と出会い、当初は積極的になれなかったものの交際することになった著者。結婚に至るまでのさまざまなエピソードと心境の変化が描かれた後半は、友人から現在進行形の恋愛を実況中継されているようで、読みながら何度も手に汗を握った。交際中にもらった手作りのプレゼントがセンスよかったことや、何度も試着したウェディングドレスの美しいイラスト、忙しい日々の中で一生懸命準備した記念品のことなどを通して、著者がどんなに相手に愛情を感じ、家族や友人たちを大切に思って生きてきたかが伝わってくる。新郎の故郷で行なわれた結婚式のシーンでは、出席者の一人になったかのようにジーンとしてしまった。
　杉浦さやか氏のことを、「かわいい」の伝道師と言った人がいる。うまい表現だなあ、と思っていたが、この本を読んで、彼女は「かわいい」ものを発見するのがうまいだけでなく、「かわいい」を通して、人生の美しさを表現できる稀有な書き手なのではないかと感じた。どこで出会ってどんなデートをしたのかだとか、結婚式の衣装や演出のことなんて、どうでもいいことなのかもしれない。散歩していて見つけた店が素敵だとか、どんな雑貨を買ったとか、旅先で出会った犬がラブリーだとか、映画に出てくる役者の着ていた服がおしゃれだとか、たいした話ではないのかもしれない。でも、そういう些細なことを慈しんだり楽しんだり、誰かのために何かをしたいと思う毎日にこそ、生きることの喜びや、美しさがあるということを、杉浦氏の作品は教えてくれているのではないかと思うのだ。
　結婚後の生活の中でも著者はきっとさまざまな「かわいい」を発見していくに違いない。それを、リアルタイムで読み続けていけることは、読者にとってとても幸せなことだ。「女ってなんでも『かわいい』で片付けるよね！」と偉そうに言った（思った）ことのある男性の皆さんに、ぜひ一度杉浦さやか氏の本を手にとってみていただきたい。「かわいい」の底力を、きっと感じていただけると思う。