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評者◆黒古一夫
「研究」を阻む最大の要因──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載⑦
No.3089 ・ 2012年12月08日
ところで、今私が「論文指導」を担当している「日本近現代文学」で修士論文を書く大学院三年生たち十四名は、元々この連載に何度か名前が出た李俄憲教授が指導してきた院生で、李教授の二年生必修の授業「日本の左翼文学」(三年ほど前からの開講)や「日本近代文学通論」からインスパイアされて研究対象を設定した者が多く、日本の大学(文学部)でも最近は恐らく珍しくなった研究題目(テーマ)が並ぶ。
因みに、着手発表会(九月十五日実施)で明らかにされた題目のいくつかを列記すると、「明治時代の『書生』像」、「徳冨蘆花の「平和」主義について──『黒潮』・『謀反論』を中心に」、「『破戒』と被差別部落問題」、「宮地嘉六文学における労働者像の変遷」、「黒島伝治の『反戦小説』」、「『海に生くる人々』と『蟹工船』の海上労働者像の比較」、「林京子文学における『上海』体験の意味」となり、他には樋口一葉、宮沢賢治、織田作之助、坂口安吾、伊藤左千夫、有島武郎、島崎藤村が研究対象(テーマ)として選ばれている。 これらの「研究」について、李教授をサポートする意味で私は着手発表の前後から今日まで院生たちの相談に乗ってきたのだが、そこで判明したことは「研究」を阻む最大の要因が「資料(参考文献・先行研究)不足」にある、ということである。テキストの場合は、古いもの(著作権の切れたもの)の大半が「青空文庫」に入っているのでダウンロードすれば、すぐに手に入るが、数少ない中国語で書かれた文献も、また多くの日本で刊行された文献(先行研究など)は、中国の日本文学研究が「発展途上にある」ということもあって、大学や公共の図書館にほとんど存在せず、必要なものは日本から取り寄せなければならない、という状態にある。院生たちの多くが、留学している同級生や友人、あるいは留学時に知り合った日本人に頼んで、「大金」を費やして文献を取り寄せざるを得ない状況で、このような「困難な」研究環境が改善されない限り、中国の日本文学研究はこれ以上進展しないのではないか、と懸念される。 (つづく) |
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