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評者◆秋竜山
エエ!! もう紅白歌合戦かい、の巻
No.3088 ・ 2012年12月01日




 酒を飲みながら、フ!! と思った。酒を飲むということは極めて大切であるということだ。つまり、自分の自覚、というか酒は、我にかえる瞬間をあたえてくれるということである。一日の時間の早さは深刻であり社会問題かもしれない。朝起きたと思ったら、もう夜寝るという具合である。一番実感できるのは夕方に雨戸をしめる時、「なんだ、さっき朝の雨戸を開けたばかりではないか」と、いう驚きである。そんなことが続く一年間は、それこそ時間の早さは狂ったように流れ去っていく。「エエ!! もう紅白歌合戦かい」という言葉が日本中の国民から聞こえてくるようだ。年とともに時間の流れは速度をます。どうしようもないことだと、誰もがあきらめている。
 それにしても、子供時代がなつかしい。時間はたっぷりあった。いやになるほど。そして、早くこいこいお正月……なんて歌って、じれったい時間の遅さをおくったものであった。なのに、大人になると、時間があまりにも早過ぎるのか。それは年齢と共に一日という時間を「ボーッ」と過ごしているからであり、それがどんどん多くなっていくということだ。困ったことは、「今、俺はボーッとしているぞ!!」という自覚なく、わからないままにボーッとしているのである。つまり、そのボーッとしている時間こそ、削られた時間であって自分の意識の中にはない。夕方近くなると、酒を飲みたくなる。その酒こそが、ハッ!! と我にかえらせてくれる瞬間であり、これを瞬間酒とでもいえるかどうか。
 羽生善治『直感力』(PHP新書、本体七六〇円)に、一流プロ棋士による時間観というようなものがのっていた。
 〈集中力は、誰にでもあるものだ。たとえば、小さい子どもにも集中力はある。(略)無類の集中力を発揮しているはずだ。ただ、子どもには、集中力はあっても根気がない。短い時間だけパッと集中することはできるけども、熱が冷め、関心を失ってしまった瞬間にもうまったく集中できなくなってしまう。〉(本書より)
 子供のすごいところは、集中力が切れた瞬間、もう次への集中力に入っているということである。大人のようにボーッとしている時間などないということだ。子供の集中力、つまり時間の使いわけを応用しているのが学校の授業の時間割だろう。次々と集中力を変える課目に変えていく。
 〈私たちは急に「集中してください」と言われてもできるものではない。ある程度の準備段階とでもいえばよいか、助走のための時間があって、それから少しずつ集中していくということになる。その助走スペースは、一日中せわしなく動き回ってはつくることができない。何もせずに、ただぼんやりと、考えないでいる時間をつくってみる。たとえていうなら海の上に肢体をなげうって浮遊しているような状態だ。〉(本書より)
 ただぼんやりと、考えないでいる時間をつくってみる。と、あるが、これは、ボーッとした時間をつくってみるということではない。何もせずに、ただぼんやりと、考えないでいる時間、ということは、そーいう時間を、考えながらいるということだ。とにかく、ボーッは時間殺しである。そんな時、酒がいいというのはアルコールの力は血のめぐりをよくして、全身を自分という実感にうめつくしてくれる。俺は今、飲んでるぞ。俺は今俺をやってるぞ。時間を有効に。しかし、酒はほどほどに。







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