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評者◆石川幹人
「超心理学」は心とモノのインターフェースの学──複雑な「心」の取扱いに人類はまだ慣れていない
超心理学――封印された超常現象の科学
紀伊國屋書店
石川幹人
No.3087 ・ 2012年11月24日




 「超心理学」とは何か。それはテレパシー、透視、予知、念力、ヒーリングなど、通常の物理学では説明のつかない現象を科学的に研究する学問である。その研究の実態と成果を極めて客観的に叙述したのは明治大学情報コミュニケーション学部教授の石川幹人氏。日本のアカデミズムにおける超心理学の第一人者であり、ほとんど唯一の大学研究者だ。
 「一九七〇年くらいまでは、日本超心理学会を中心に一〇人くらいの大学研究者がいたのですが、心理学や物理学、測定に関する統計学など広範な知識が必要なこと、また分野として未確立なためモチベーションが高まらないこと、そしてマスメディアを情報源としてキワモノ扱いされてしまう精神的プレッシャーなどの要素が相まって、なかなか後進が育ちづらいのが現状です。この分野の一流の研究者は世界で五〇人程度いるのですが、哲学などの関連分野をしっかり把握している。そのレベルの高さには驚きます。他の学問だと、先端になればなるほど、深く進展はしますが、その扱う領域は専門化して狭くなるでしょう。超心理学は、研究が進めば進むほど、広くなるんですね」
 冒頭には「超心理学・超能力に関する七つの誤解」と題して、「超心理学はずさんな実験をしている」など代表的な「七つの誤解」を挙げている。偏見の眼差しで見られることが多い学問なのだ。しかしだからこそ専門家たちは高度に厳密な分析を心掛けてきた。
 「心の科学の対象は、モノの科学として発展してきた自然科学とは違って、とても複雑で応用も難しい。心は揺らぎますし、場所、時、人によっても違うわけですから、「ああしたら、こうなる」というわけにはいかないのです。しかも複雑な要因が絡まっているので、現象から取り出せる結果はどうしても小さなものになってしまう。この扱いにまだ人類は慣れていないとも言えます。心理学自体が、そもそも統計でやるしかないのです。だからその結果を確実に把握すべく、超心理学は、統計的分析に磨きをかけてきました。ところがその方法論を脇において、物理学の論理で反論される。心理学の方法論がまだ理解されていないから、こういうことになる。つまり超心理学が発展していないのは、心理学が発展していないからなのです」
 日本にも超心理学が根付く機縁はあった。それを奪い去ったのが、明治時代末期に起きた「御船千鶴子の千里眼事件」だ。当時東京帝国大学で心理学を教えていた福来友吉が、透視能力者とされた千鶴子の能力を確かめる実験を実施。その手法に疑惑が生じた事件である。もしもこの一件がなければ、超心理学の未来は変わっていたのかと尋ねると、「そうだと思いますね。そこから封印は始まった。歴史的に日本が欧米の文化を輸入して、富国強兵に資するための自然科学を整備していく時期に合致してしまったのです。だから弾かれてしまった」。実は明治大学の、文学部の前身にあたる文科の講師陣には、福来が名を連ねていた。氏は着任後に気付いたそうだが、ここには浅からぬ因縁を感じる。
 今後の展望については「明るい話題はないです」と笑いながら、次のように話した。
 「機器の発達により実験が容易に行なえるようになったので、データはどんどんたまりますから、統計的な数字も提示しやすくなった。そのため一般の人にとっても、もっと身近に納得してもらえる状況が生まれるかもしれません。またそうなることで主流科学の研究者が参入してきてくれればと思います。現在の科学と超心理学の間には深い溝があります。確かにモノの科学は、「モノの世界は相当分かった」としている。もちろんそれは幻想ですが、モノの実験では、心は関与していない。つまり心のことは、まだ全然分かっていない。だからモノの研究をしている人たちが、唯物論的ではない形で、心はどのように位置づけられるかを考えてもらいたいですね。一方、心の研究をしている人たちは、モノの研究があまりにもうまくいっているので媚びている。だから「心」から「脳」の研究にいってしまう。そうではなくて心の独自性をストレートに研究してほしい。それが心理学のメジャーな態度だと思います」
 「心」=「脳」と言われるとき、何か違和感を覚えないだろうか。そもそも私たちは、自らの知覚に関して十分に理解しているわけではない。違和の淵源はそこにある。超心理学は、その「違和感」に挑戦する学問と言えるだろう。
 「超心理学は、心とモノのインターフェースの学です。心とモノがどうやって関わっているのかを追究する科学なのです。心が超物理的だとすれば、時空間から自由である可能性がある。「ここ」にある必要がなく、広がりがあり、複数的なのかもしれない。心理学では特異的な心理状態を扱うことが一般的であるように、超心理学は、「目で見なくても分かる」「触らなくても動かせる」などの例外的な事柄から、「意志により手が動く」といった現象を究明する学問なのです」

▲石川幹人(いしかわ・まさと)氏=1959年東京都生まれ。東京工業大学理学部応用物理学科卒。現在、明治大学情報コミュニケーション学部教授。専門は認知情報論、科学基礎論。著書に『人間とはどういう生物か』(ちくま新書)など。







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