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評者◆黒古一夫
「村上春樹フィーバー」の現実──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載⑤
No.3087 ・ 2012年11月24日




 さて、遅ればせながら、ということになるが、ここ何年かノーベル文学賞の有力な候補者として名前が挙がりながら、今年もまた「落選」した村上春樹と中国の関係について、ここで少しだけ触れておきたい。すでに本紙でも先般紹介されたが、村上春樹と中国(読者)との関係については、今年刊行された三〇〇〇人の中国人学生へのアンケート調査に基づいて書かれた王海藍の『村上春樹と中国』(アーツアンドクラフツ刊)が詳しく、それによれば中国における「村上春樹熱」は、実は一九八九年に初めて中国語訳されて以来今日まで一五〇万部以上を売り上げた『ノルウェイの森』熱であって、他の作品は初期の『風の歌を聴け』や二〇〇二年刊の『海辺のカフカ』がわずかに読者を得ただけで、最新刊の『1Q84』(二〇一〇~一一年)に至っては、九二〇〇万円で版権を獲得したにもかかわらず、それほど多くの人に読まれていない状況にある、という。
 現に私が教えている院生五〇人に聞いたところ、『1Q84』を呼んでいる者はわずか一人であった。しかも、それは翻訳ではなく日本人教師から借りて読んだもので、内容上よく分からない部分が多かった、との感想を述べてくれた。そして、機会を得て複数の文学研究者と話した折の感触では、これは世界に共通している現象と言っていいのだが、村上春樹の読者のほとんどは「若者・学生」であって、四〇代以上の「大人」はどうも読む気すら起こさない、というのが「村上春樹フィーバー」の現実のようである。このあたりの事情も、「社会性の欠如」と共に、村上春樹がノーベル文学賞を逸する理由の一つだったのではないか、と思われる。
 もっとも、この度ノーベル文学賞を受賞した莫言についても、書店に並べられた莫言関係の本は数日で「完売」したということだが、私の担当している「日本語学科」の院生たちはほとんど読んでおらず、高度経済成長真っ只中の社会にあって「文学」が軽視される状況は、いずれの国も同じのようで、バブル経済時代の日本で盛んに「純文学衰退説」が取り沙汰されたことを想い出した。
(つづく)







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