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評者◆小嵐九八郎
反原発の闘いの牽引者に読んで欲しい──朝山実著『アフター・ザ・レッド――連合赤軍兵士たちの40年』(本体一六〇〇円・角川書店)
No.3085 ・ 2012年11月10日




 むかし話で恐縮する。拘置所の独居暮らしから保釈になった時、会話をするということは大変なことと知った。自分の考えを整理して舌に託し、他人の声を耳で確かめ答える作業は、一年以上の空白があるときつい。それと、四十代に入ってから、かみさん殿がウツ病になった時、ヒモ暮らしをしていたもので、おのれの力で生活費を稼ぐ厳しさに茫然としたことがある。自動車免許もない四十男に求職活動は、万馬券ほどに難しかった。
 ローザ・ルクセンブルグの御人好しの組織論が主流だった党派にいてもこうなのであるから、1972年のあさま山荘の銃撃戦と、そこに至るプロセスで14人ほどの内部処刑死をしちまった連赤のみなさんは、刑期の長さ、その過激にして過酷な“風評”ゆえに、遥かにしんどかったろうと思う。いや、しんどさが続いていると考える。行為と、思想と、組織のあり方と、時代の捉え返しと。
 このテーマに答えようとした本が、今年の真冬に出ている。紹介や感想が遅れたのは、この本に出会った時、腰の骨がいかれていて身動きできない上に、どういうわけか、なお畏怖している人が鉄パイプで殺されたとか、ほとんど関わりはないけれど責任がまるでなくもない党派内の争いとか、ついには、無縁だが、五対五、計十人の死者が出た分裂の件の夢に魘され、ツンドクにしていたからだ。肉の弱さは、魂までになのか……。
 本のタイトルは『アフター・ザ・レッド』、サブタイトルは「連合赤軍兵士たちの40年」、角川書店刊、税別1600円。かなり濃くて訊きにくいインタビューを為しての著者は朝山実さんだ。『AERA』『週朝』で書いているルポライターだ。
 当時の煮詰まった件の、語り尽くしても語り尽くせっこないあれこれが詰まっているけれど、何十年振りに娑婆に出てきての空気への戸惑い、暮らしへの挑み、恋愛や結婚だって一周以上の遅れであり、子育てはなお、ここに重さがある本だ。俺は、そこで泣く。
 反原発の闘いは決定的に大切であり、牽引者は読んで欲しい。“普通”の罪で、久し振りの世間で冷たい風に吹かれている人も。
(作家・歌人)







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