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評者◆秋竜山
〈間抜け〉と〈間無し〉、の巻
No.3085 ・ 2012年11月10日




 ビートたけし『間抜けの構造』(新潮新書、本体六八〇円)を読む。読みながら考えた。〈間抜け〉と〈間無し〉。〈間無し〉なんて言葉はあったかどーか。第一章〈間抜けるやつら〉では、〈バカと間抜け〉という項目がある。
 〈間抜け、というのは、バカと似ているようで違う。バカにはつける薬がない‐。よく言われるけど、その通り。間抜けは「〝間〟が抜けている」ということだけど、バカには〝間〟がどうだかは関係ない。〉(本書より)
 と、いうことは、バカにはつける薬がない、のに対し間抜けにはつける薬があるということか。
 〈間が悪い。あるいは〝間〟を外しちゃうのが間抜け。つまりそれまでのお約束や文脈、状況といったものがわからずに踏み外しちゃうのが間抜けであって、裏を返せば、そこさえちゃんと押さえておけば、間抜けにはならない……、かもしれない。〉(本書より)
 たとえば、「このバカが!!」と、いわれるのと、「この間抜けが!!」と、いわれたのではニュアンスが違うような気がする。私は、「このバカが!!」と、いうよりも、「この間抜けが!!」と、いわれたほうがショックが大きいだろう。バカという表現がなんともなつかしく思えてくるのは、大昔、私が漁師時代の青年の頃。漁師の世界でよくバカという言葉が飛びかっていた。言葉の中で一言につき必ずバカといわれた。「バカだなァ」「なにやってんだこのバカが」「バカそーじゃァねえだろ」とか、目上のものによくいわれたものだ。バカといわれても、それが日常会話の中の当たり前のことであったから、叱られたのとちょっと違った。それから何年かして、その漁師仲間というか先輩達と昔話をしている中で、「そーいえば、昔はバカバカとよくいったし、いわれたものだったなァ」と私がいうと、先輩が、「それは、ちょっと違う」と、いった。そして、「そーじゃァなくて、バカだけではなくて、バカの下に必ずチョッというのをいれた」と、いった。つまり、「バカッチョ」と、いうのだった。「なにやってんだよ。いくらいってもわかんねえんだな。このバカッチョが」と、いう具合だ。そーいわれれば確かにそーだった想い出した。バカの後につくチョッ。には、なみなみならぬ愛情が秘めているというのだ。そーいえば、歌謡曲に「バカッチョ出船」と、いうようなのがあったような、なかったような。さて、間抜けに、チョッなるものがつけられるのだろうか。「この間抜けチョッ」なんて聞いたこともなければいわれたこともない。もし、いわれたとしたら、妙な気持がしてくるだろう。〈ふしぎな日本語〉という項目では、
 〈〝間〟に対する感覚というのは、日本人独特のものという気がする。(略)それとふしぎなのが「間に合う」という言葉。「奥さん、どうですか? 来月から朝日新聞をお願いしますよ」「ちょっと間に合っていますので……」。(略)「間に合う」という言葉を考えれば考えるほど、ちょっと混乱する。(略)そもそも言語がない。「(何が)間に合っている」のかわからない。さっきの例でいくと、「新聞が間に合っている」ということになるんだけど、なんだかそれだと余計によくわからない。〉(本書より)
 間がいい、とか間がわるい、とかいう。間がよくもわるくもないってこと、あるかしら。







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