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評者◆黒古一夫
「日本文学」を学ぶ中国人大学院生たちの複雑な「日本への思い」──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載②
No.3084 ・ 2012年11月03日




 ここ武漢では、「尖閣諸島国有化」問題に関して、大学キャンパス内やその周辺に限ってという言い方しかできないが、表面的にはいかにも「平穏」である。しかし、講義で日中の「過去の歴史」に触れたときなど、「日本人教師」の私に鋭い視線が向けられることがある。大学院生たちにとって、満州事変(一九三一年)から始まる十五年戦争(アジア太平洋戦争)は祖父母の時代のことであるが、「歴史教育」が徹底している中国にあって日本の「中国侵略」や「南京大虐殺」は厳然たる「事実」であって、疑問の余地など全くない。
 現に、周知のことに属するが、ここ武漢は昔から日本と深い関係にあったからか(戦前の漢口地区には、日清戦争終結後の一八九八年〈明治三一年〉から太平洋戦争の敗戦まで「日本租界」〈実質的な支配地〉が存在していた。また、石川達三の『武漢作戦』〈一九三八年〉や林芙美子の従軍記『北岸部隊』〈三九年〉には、漢口攻略戦〈武漢作戦〉が詳細に描かれていた)、「日本」に対する思いは複雑なようで、「日本語学科」(大学院生は全員、「日本近現代文学」か「日本文化論」「日本語論」で修論を書くことになっている)の院生たちも、口には出さないがそのような複雑な思いを共有しているように見える。
 それは、修論の「資料(参考文献)」収集を兼ねて留学する院生(毎年二年生と三年生で十数人、今年は大阪大学と新潟大学)にとっても同じで、「私たちは日本に行けるでしょうか」「日本に行っても、大丈夫でしょうか(危害を加えられたりはしないでしょうか)」という質問は、中国人の複雑な「日本への思い」を象徴している。
 そんな「日本文学」を学ぼうとする院生たちの複雑な思いを知れば知るほど、「日中国交四〇周年」の今年に、石原慎太郎氏は何故「尖閣諸島購入」などを言い出し問題を先鋭化したのか、その意図が分からない。まさか日中戦争の「再開」を望んでいるわけではないだろうが、「反日」に怯える一〇万を超える在留邦人の存在を考えると、何とも「嫌な感じ」である。
(つづく)







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