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評者◆秋竜山
つい手に取ってしまう脳の本、の巻
No.3084 ・ 2012年11月03日




 テレビを観ていたら、高名な政治家が、答弁の中で「ミソもクソもいっしょくたにした……」と、いうような言葉を遣い、言語に気をつけるようにシテキされ、あやまったりする場面があった。つつしめ!! と、いう理由は、下品な表現であるということだ。下品といえばいえなくもない。でも、私はこの言語はみごとな日本語であると思う。ミソといえばミソ汁である。禅でいうところの「ケムリをみて何をおもうか?」では「火をおもう」が正しい答えらしい。それをマネて、「ミソをみて何をおもうか?」。即座に「クソをおもう」と、答えたとしたら、これこそ、「ミソもクソもいっしょくたにするな」だろう。ここで「脳ミソをおもう」と、答えて、「ふざけるな!!」と怒る人はいないだろう。「お前は、脳ミソがたりねえ」と、いわれればいい気はしないものだ。そして、ミソをみるたンびに、脳が頭に浮かぶのは、これは脳がこう感じるからだろう。脳に関する、わかりやすい本が書店にならぶようになった。脳ミソに関心がそれだけあるのだろう。脳についての本がそれだけ売れているのか。つい手に取ってしまう。川畑秀明『脳は美をどう感じるか――アートの脳科学』(ちくま新書、本体九五〇円)を読む。
 〈人はなぜ、どのように美に魅せられるのか。この問題について脳科学は挑み始めたばかりだ。アートの脳科学はまだ確立しきれていないし、読者の皆さんには、私たちの日常に寄り添いうる科学の産声として本書を手にしてもらえたら、という気持ちでいる。〉(はじめ‐より)
 芸術家も脳について、勉強すべきかもしれない。いったい他人の脳はどうであるか。と、いうより、まず自分の脳について芸術家としてふさわしいか、やっていけるか、なんて科学的に知らないと、ね。
 〈美術史家のエルンスト・ゴンブリッチは、「これこそが美術だというものが存在するわけではない。作る人たちが存在するだけだ」と述べた。作る人は、彼らのイメージや考えを、手足を動かして作品にしている。その司令塔が、彼らの脳であることに疑問を挟む余地はない。作品には、作り手である人間の心や脳の働きが映し出されている。〉(本書より)
 世界の名画をカンショーしながら、「この画における脳の働きというか、行動はどこにあったのか!! 作者はもとより、その作品を受けとめる、今の自分の脳はどのように反能しているのか?」なんて、考えたりすると、めんどクサイような気がしないでもない。
 〈美術評論家で戦後の論客であった青山二郎は、「優れた画家が、美を描いた事はない。優れた詩人が、美を歌ったことはない。それは描くものではなく、歌ひ得るものでもない。美とは、それを観た者の発見である。創作である」と述べるが、美は見いだすものであり、美とは心や脳の状態であることを示す言葉でもある。〉(本書より)
 もし、お世辞にも、「いい画ですねえ」なんて自分の作品をいわれたら、どーしましょう。「ハイ、心や脳で描きました」なんて、答えたら、どうしましょう。よく「心で描きました」なんていう人がいたりするものだが、「ハイ!! 脳で描きました」というような人は見たことはない。しかし、本書を読むと、そういいたくなってくるだろう。







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