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評者◆伊達政保
米軍基地、このフェンスの向こうはアメリカだ──ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2012で「伝説の映画集団NDUと布川徹郎」が連続上映
No.3083 ・ 2012年10月27日




 2月に亡くなったドキュメンタリー映画監督・布川徹郎の作品が、ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2012の中で「伝説の映画集団NDUと布川徹郎」と題して、ポレポレ東中野で連続上映された。34年振りに見た『鬼っ子・闘う青年労働者の記録』を始め、幾つかの作品を見なおして、オイラ改めて気付いたことがある。国境とは国家と国家の間にだけあるのではなく、国家内部にも厳然と存在しているのだ。「フェンスの向こうのアメリカ」、米軍基地である。そこは日本国内の米軍基地であるばかりでなく、アメリカ合衆国なのだ。治外法権などという生易しいものではなく、そこには国家が存在する。フェンスはすなわち国境であったのだ。
 NDU(日本ドキュメンタリスト・ユニオン)は、4作目『アジアはひとつ』で「反帝亡国・国境突破」をスローガンに掲げ、沖縄から台湾、そして5作目の『太平洋戦争草稿』でミクロネシアに向かった。1作目『鬼っ子』から一貫して立ち現れるのはアメリカであり、そこに存在する米軍基地である。『鬼っ子』の冒頭は米軍立川基地から始まっている。ベトナム戦争下の反戦反基地闘争を描いた作品であり、布川氏自身後に、まだ沖縄は見えていなかったと語っている。しかし、立川、横田の米軍基地にジェット燃料を輸送する米軍タンク車から撮られた沿線の風景はまさにアジアであり、ベトナムと連続するものとして捉えられなければなかったのだ。新宿騒乱後、新宿駅に作られた壁にNDUは「このカベの向こうはベトナムだ」と書き記す。後に布川氏は、この時「この壁の向こうは沖縄だ」と書いていれば、後に沖縄に関わっていくぼくたちの関わりの位相も、もう少し意味を持ち、深いものになったのかもしれぬ、と書いている。しかし、今になって考えれば、この壁の向こうはアメリカだ、と書くべきだったのだ。
 2作目『モトシンカカランヌー』は、復帰前の沖縄の復帰闘争、反戦反基地闘争と沖縄に生きる娼婦たちやヤクザを描き、復帰の意味とコザ暴動につながる構造をえぐりだしている。しかし忘れてならないのは、当時の沖縄は形式はどうあれ、米軍の軍政下にあり、アメリカだったのだ。そして米軍基地との二重の国境が存在していた。この構造は復帰後の現在もその本質は何ら変わってはいない。見よ米軍はオスプレイの配備を日本政府、防衛省に通告するだけであり、協議事項ではないとして、普天間基地への配備を強行した。沖縄だけではない。今後、三沢、横田、厚木、岩国などの米軍基地を起点に訓練飛行が行なわれる。そこには国境としてのフェンスが存在しているのだ。
(評論家)







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