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評者◆黒古一夫
武漢より──中国から見た現代の日本に迫る、短期集中連載①
No.3082 ・ 2012年10月13日




 まず、そもそもの話から始める必要があるだろう。私は、二〇一一年三月、あの東日本大震災とその後に起こった混乱した中で筑波大学を定年退職したのだが、退職する何年か前からアメリカや中国、スロベニアといった国のいくつかの大学から、退職したら是非うちに来ませんか、と言われていたということがあった。しかし、まさか本当にそれらの大学から来校要請があるとは思っていなかったから、内心は「晴耕雨読」を気取り、完結していない『立松和平全小説』(全三〇巻、勉誠出版)の解説を書いたり、懸案の作家論(『井伏鱒二論』等)を仕上げたりして残りの半生を過ごそうと思っていたのだが、退職して半年後、一〇〇〇万人を擁する大都市武漢の華中師範大学外国語学院(日本語科)から話があり、この九月から教鞭を執っているというわけである。
 九月一八日現在、尖閣諸島(中国名「釣魚島」)の国有化問題に端を発した「反日デモ」は、今日が満州事変の始まりとされる「柳条湖事件」記念日ということもあって、激しさを増しているようで、ここ武漢でも小規模ながら「反日デモ」が行われ、キャンパス内にも「反日ビラ」が貼られた。そんな「騒然」とした中国国内の状況に、同僚の日本人教師の中には「怯え」を隠さない人もいるが、キャンパス内からあまり外に出ない(キャンパス内には、食堂もスーパーも、何軒もの雑貨店もあるので、普段はほとんど外に出る必要がない)私の生活実感からすれば、全体として「平穏」である。院生たちとはキャンパス内で声高に「日本語」を話しているが、とがめるような目に出会ったことはない。院生たちも、何百人も入る学生食堂(職員も一般人も利用可)で、何の気兼ねもなく「日本語」で私に話しかけてくる。
 ここ武漢の大学では、どうやら日中関係に緊張を強いている「尖閣諸島」問題も「遠い世界」の出来事のようで、それはそれで「健全」な視点(思考)のように思え、私も学ぶ必要があるかな、と思っている。(つづく)
(文芸評論家)







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