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評者◆トミヤマユキコ
古賀絵里子ちゃんの振れ幅が凄すぎる件
浅草善哉
古賀絵里子写真集
No.3081 ・ 2012年10月06日




▲【こが・えりこ】写真家。1980年、福岡県生まれ。上智大学文学部卒。2004年のガーディアン・ガーデン主宰フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」受賞や、2011年の写真集『浅草善哉』出版など、フリーランスの写真家として着実にキャリアを積み上げている。BS‐TBS『おんな酒場放浪記』のレギュラー出演者として大人気。

 BS‐TBS『吉田類の酒場放浪記』の女性バージョン『おんな酒場放浪記』(以下、『おんな』)をご存じだろうか? 大衆酒場の名店を巡り、飲み食いし、店主や常連客と語らうというシンプルな構成は本家そのままだが、『おんな』の方には、現在3人のレギュラー出演者がいて、それぞれの個性が楽しめるようになっているのだ。

 美人で小顔で八頭身。一見ツンケンしてそうな風貌なのに、抜群のコミュニケーション能力で酔いどれたちの中に飛び込んでゆくファッションモデルの倉本康子。料理研究家・栗原はるみの娘としての面目躍如、料理に関する知識量の豊富さと、飲みっぷり食いっぷりの良さが売りの栗原友、そして、今回ご紹介する古賀絵里子ちゃん。

 もう「ちゃん」付けせずにはいられない、圧倒的な愛らしさ。つやつやの髪の毛、ぷりぷりのお肌、どこで買ってくるのか分からないけど、絵里子ちゃんじゃないと絶対似合わないガーリーなお洋服。31歳とは思えぬ若々しさは、敢えてたとえるならオリーブ少女か。わたし(79年生)と年齢はほとんど違わないのに、まるで娘を見るような眼で見てしまう。実際、絵里子ちゃんが娘だったらサイコーだろうなあ。絵里子ちゃんと酒場に行きたい、絵里子ちゃんに遠慮なく飲んで酔っ払って欲しい。ああ古賀絵里子が産みたい。

 もしかしたら『おんな』は、「バーチャルでいいから若くてカワイイ女の子と飲みてぇな」というオジサマたちのため、あるいは若い世代の女の子たちに「大衆酒場って面白いよ良いところだよ」と啓蒙するために企画されたのかもしれないけど、絵里子ちゃんに関しては、ただもう企画意図を超えて「愛でてるだけで幸せ」である。

 飲むことが大好きな様子の絵里子ちゃんだが、大衆酒場カルチャーに造詣が深いワケではないらしく、ホッピーを見て「ホッピーってナニモノなんですか!?」と聞いたりするし、「ケモノ」の味と言おうとして「ケダモノ」の味と言ってしまったりもする。間違いなくうっかり者の天然キャラだ。倉本のようにオッサンたちと渡り合おうとするのでもなければ、栗原のように料理のプロ同士、板さんとじっくり語らうのでもない。ふんわりとそこに居て、飲んでる。そしてリアルに酔っ払う(退店後のコメントで酔い具合が分かる)。お店の常連客は、たまに絵里子ちゃんの世界に入ってくるけど、基本的に遠くから眼を細めて見ている。絵里子ちゃんの周りに漂う、柔らかい空気を誰も邪魔できない。

 ……そんな印象を抱いたまま、絵里子ちゃんの本業に触れると火傷するから注意が必要だ。あのふんわり女子が、写真となるとガチで対象を追いガチで撮る。「ギャップ」などという言葉では説明できない、不思議な断絶があるのだ。

 『浅草善哉』(青幻舎)は、6年間の取材、3回の個展を経て完成された写真集。寝かせに寝かせ、練りに練られている。基本的には、浅草に住む仲村善郎・はな夫婦の生活を写し撮ってゆくのだが、イイ味出してるじいちゃんばあちゃんの仲良し写真だと思っていたものが、加速度的に変化してゆくのが少し恐ろしいような感じだ。

 老夫婦の閉じた世界は、お互いの身体を着実に蝕む病がひきがねとなって、爛れ、崩れ、やがて消える。最後は別々の病院で亡くなった彼らの住処はがらんどうになってしまう。そんな老老介護の過酷な現実を、ドキュメンタリーとして撮らず、彼女にしか調合できない、甘くて苦いフィクションの粉砂糖をかけてみせる。静謐な世界観だが、絶えず見る者に揺さぶりをかけてくるため、穏やかではいられない。これが、あの、絵里子ちゃんの写真なのかと思うと、その振れ幅が恐ろしい。

 しかし同時に、この振れ幅が、彼女の優れたバランス感覚を思わせるのも事実だ。振り子のように、右に左に大きく揺れる。その規則正しい運動は、まるで催眠術のイントロのようだが、絵里子ちゃんの催眠術にならかけられてもいい。いや、むしろかけられたい!!
((@tomicatomica)ライター)







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