書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆桜木奈央子
正反対だからこそお互いに学び合えることがある──ウガンダは遠いけれど、「遠くない」国。もっと身近に感じてもらえたら
かぼちゃの下で――ウガンダ 戦争を生きる子どもたち
桜木奈央子写真・文、伊藤氏貴解説
No.3081 ・ 2012年10月06日




 アフリカ大陸の東部にあるウガンダ共和国を撮った『かぼちゃの下で』は、写真集ではあるが変わった一冊だ。写真集ながらこれだけ文章がある本は珍しいのではないだろうか。
 「この本を出すきっかけは、解説を書いてくれた伊藤氏貴さんが私の講演会を聴く機会があって、その講演会みたいな感じで本を作らないかと言われたんです。講演会では写真を多く使いますが、なるべく悲惨なシーンを選ばないことにしています。でも、言葉ではアフリカの戦争の現実を語ります。そのギャップで聴いている人の心を揺さぶりたいと思ってやっています。この本は写真やアフリカに興味がない人にも手にとってほしかったので、文章と写真のどちらかが多すぎるということは避けました。
 戦争のことを伝えたいと思って写真を撮り始めた頃は、モノクロで悲惨なシーンを撮ってドラマティックに見せることをしていました。ただ、それは私には合っていないというか、自分が無理をしなければならない。そして、私がやらなくても他の人がすでにしている。そこで私にしかできないことがないかと考えたときに、傍観者としてカメラを構えるのではなく、内部の人が撮っているようにして表現すれば、私が伝えたいことが伝わるんじゃないかと考えが変わっていき、この本に至りました。撮る方と撮られる方、お互いに無理なく撮りたいという気持ちがあります」
 写真だけ見ると、一瞬、戦争とは結びつかないようにも思える。戦争地帯にあって、ここに収められている多くの写真は穏やかに見える街並みや、牧歌的な風景、そこに暮らす人々の笑顔だからだ。
 「そこがねらいなんです。戦争というと、自分たちとは全く違う、特別な生活だと思いますよね。でも戦争があっても人びとは暮らしを営んでいるし、子どもは走り回るし、恋愛もします。ニュースで流れてくるような“戦争”からは、「遠い」というイメージが拭えないと、講演会をしていて実感しました。現地では、子どもたちは学校に通い、ここに収められているような「普通の」光景があります。しかし夜になるとゲリラ軍が現れて子どもを誘拐したり、虐殺をしたりということが起こるところでもあります。もちろん、昼間にもそういったことが全く起こらないわけではありません。ウガンダでは戦争と日常は隣り合わせですから」
 日本は今、人びと、特に子どもが夢を持てない、将来が見えない国だと言われることがある。それに対し、日本に暮らす私たちからすれば信じられない状況にありながら、ウガンダの子どもたちには「~になりたい」、「~をしたい」という明確なヴィジョンがあることが印象的だ。夢というとポジティブなことに聞こえるが、戦争と日常が隣り合わせであるように、当然明るいことだけではない。たとえばアロヨという女の子がこの本には出てくるが、彼女はゲリラ軍に誘拐され、その兵士の子どもを身ごもり、出産する。そして産まれたばかりの娘を抱え、ゲリラ軍の元から逃げてきた。その彼女は「恋をしたい」と語る。
 「私たちは与えられすぎて、忘れてしまっていることが多いんじゃないでしょうか。選択肢が多くて夢がない。物もそうです。私たちは持ちすぎているんじゃないか。ウガンダは正反対です。だからこそ、お互いに学び合えることがある。たくましさは私たちの比ではないな、といつも思います。特に女性ですね。並大抵のものじゃないんです。
 アロヨのように性的被害に遭った女性は少なくありません。一人で草むらで子どもを産んだとか、レイプされてできた子どもを愛するとか、私たちの想像を越えるようなことが現実としてあります。アロヨからその話を聞けたのは、もちろん初めて会ったときから長い時間をかけてからでした。でも、こういうふうに話してくれることは稀なことです。自分の心の傷が深ければ深いほどそれを気軽に話せないのは、私たちでも彼らでも同じことだと思います。それでも自分の経験を打ち明けてくれたのはとても嬉しかったし、本当の意味で彼女と心が通い合った気がしました」
 「お互いに」というところがポイントなのかもしれない。復古主義ではないが、今の日本にはなくなってしまったものが見えてくることもある。
 「ウガンダの人は、人との付き合い方の深さが今の日本とは全く異なっています。たとえば、私が町を歩いていると知らない人も声をかけてきて、「昨日はビールずいぶん飲んだんだって? 大丈夫?」なんて訊いてくる。私はそれまで、個人主義の世界(日本)にいたわけですから、はじめは結構しんどかったんです。トイレにいってもお風呂にいっても、覗くわけじゃないけれど誰かが見ている。でもそれによって助けられたことがたくさんある。日本の集団行動とは違うものです。人と人との関わりの温かさがありますね。彼らは日本のこともインターネットを通じて知っていて、「自殺率が高いのは大丈夫か?」とか、「少子化っていうけれど家族は多い方がいいよ」とか心配してくれたりする。
 講演会をしたり、この本を出したりしていくなかで、「今までの自分のアフリカの見方は間違っていた」、「アフリカについて知っていると思っていたことはほんの一部分でした」という感想をもらうことがあります。それは本当にうれしいことです。そこから、ウガンダを含め、アフリカのことをもっと身近に感じてもらえたらいいですね」

▼桜木奈央子(さくらぎ・なおこ)氏=1977年生まれ。フォトグラファー。大学在学中に内戦中のウガンダ北部を訪れ、「別の生き方の可能性」をテーマに写真を撮り始める。2007年4月、アチョリ王国(ウガンダ北部)により親善大使に任命される。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約