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評者◆秋竜山
電気料金値上げ反対!、の巻
No.3080 ・ 2012年09月29日




 福田和也『病気と日本文学――近現代文学講義』(洋泉社新書y、本体九二〇円)は、〈著者の慶應義塾大学での迫真の講義を再構成して収録〉であるから、耳から聞こえてくるような文章であるのが面白い、というかたのしい。
 〈お配りしたプリントの一枚目は『漱石の病跡――病気と作品から』、千谷七郎という東京女子医大の精神科の先生が書いた文章です。〉(本書より)
 など、その場で講義をうけているような気分を味わえる。〈「病気」から読み解く日本文学〉(オビ)。子規の結核、芥川の神経症と自殺、など有名中の有名であるが、漱石の胃潰瘍と神経衰弱も漱石の文学そのものである。本書のタイトルには、漱石ぬきにはカッコーつかないだろう。
 〈といいますのも、漱石は先ほど申しました修善寺の大患で、身体とは何か、精神とは何か、その認識を根本から揺るがす体験をしているんですね。『思ひ出す事など』という漱石の手記を少し読みますと、〉(本書より)
 文学の神様は漱石に胃潰瘍をあたえた。はんぱな潰瘍ではなかった。〈『門』の連載中に、漱石は胃潰瘍を患って伊豆の修善寺に療養に出かけます。ところがその療養先で八百グラムの血を吐いて、人事不省に陥ってしまう。文学史的にも有名な「修善寺の大患」と呼ばれているものです。この経験が漱石の文学に決定的な影響をもたらしたといわれているんですね。〉(本書より)
 と、いうことは、もし漱石に胃潰瘍という病気がなかったら、またもう一人の漱石がうまれただろう(なんて、すぐそんなこと考えてしまう私の困ったクセである)。胃潰瘍なしの漱石など考えられない。漱石は血を吐き人事不省に陥った、そして一カ月ほど経って奥さんから「三十分ほどあなたは死んでいたんですよ」と言われた。その時、生死二面の対照という二つの現象を知ったのだ、という。
 〈人間が死ぬ瞬間に、死の淵を覗くというような、何らかの人間的な繋がりがあるかと思っていたら、そんなものは全くない。もっと暴力的に、即物的に、肉体にとっても精神にとっても、電気のスイッチを消すほどの余韻もないものとして訪れてくる。自分の人生なり生命が、何らかの統一感なり連続性を持っているのだという観念に対する、非常に強力な否定がそこにここで加えられている。〉(本書より)
 死ぬ瞬間が、電気のスイッチを消すほどの余韻がない、ということは、このたとえは恐ろしい。落語などにある、人間の寿命のローソクの火が消えていく、のだったらまだ人情味というか、あったか味のようなものがある。涙を流すだけの余裕のようなものがあるだろうが、それが、電気のスイッチを消すほどの……となると、まさに人間の死というものは機械的であり、ロボットのようなものではないか。このようなことを知ってしまうと、後が怖い。なぜならば、電気のスイッチを消すたびに、「アッ、今、死んだ」なんて頭に浮かんでくるからだ。電気をつけたり消したりするたびに、生まれた、死んだなんてことが頭に浮かんできたらたまったものではない。節電の時代になってしまうようだ。つまり電気のスイッチを消せということか。死ねということか。かといって、つけっぱなしの電気ということもありえない。電気料値上げ反対。







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