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評者◆殿島三紀
暗闇の中でつながる──監督 アグニェシュカ・ホランド『ソハの地下水道』
No.3080 ・ 2012年09月29日
先月観た映画は『コッホ先生と僕らの革命』『モンサントの不自然な食べもの』『ライク・サムワン・イン・ラブ』『ソハの地下水道』など。
『コッホ先生と僕らの革命』。「ドイツサッカー初めて物語」とでもいうべき実話。少年たちとダニエル・ブリュール演じるコッホ先生が良い。『モンサントの不自然な食べもの』。世界の遺伝子組み換え作物市場の90%を握る企業・モンサントの実態にマリー=モニク・ロバン監督が迫ったなんとも怖ろしいドキュメンタリー映画。『ライク・サムワン・イン・ラブ』。アッバス・キアロスタミ監督が日本を舞台に日本の俳優で撮った作品だが、観終わった後に奇妙なとまどいを残していく映画だ。 そして、今回ご紹介する映画は『ソハの地下水道』。地下水道と聞き、ある年代以上の映画ファンがすぐに思い浮かべるのはアンジェイ・ワイダ監督の『地下水道』(1956)だろう。第二次世界大戦下のポーランドで起きたワルシャワ蜂起の悲劇を描いた名作で、ワイダ監督31歳のときの作品。ところが、同じ地下水道が舞台でも『ソハの地下水道』の主人公はレジスタンスでもなんでもない。下水道修理をなりわいとする中年男ソハ。それも小悪党といった風体である。1943年、ポーランドのルヴフ。本業だけでは妻子を養えず、コソ泥を働き、その戦利品を職場である地下水道に隠しておくという男だ。迷路のような下水道もソハにとっては自分の部屋のようなもの。そんな男がある日、ナチスのゲットー掃討から逃れようと、地下水道に通じる穴を掘っているユダヤ人グループを発見した。報奨金目当てにドイツ軍に報告すれば彼らの命はそれまで。だが、ソハは一回だけの報奨金よりも、このユダヤ人たちを地下水道にかくまい、恒常的に金をひきだすことを思いついた。地下水道の隅から隅まで知り抜いているソハにとって彼らは新しい金づるになるはずだった……とまあ、ハリウッドが撮影したら、よくある戦争コメディになりかねないのだが、これがなんと実話である。ユダヤ人たちが繰り広げる生き抜くための駆け引き、彼らに傾いていくソハの心の移り変わり。きれいごとばかりでないところが良い。地下水道という詩的なタイトルがついてはいるが、要するに地下の下水道。臭いも湿気もヌルヌル感も相当なものだ。それらを観客の想像力にだけ任せず、幼いユダヤ人の少女の口から言わせるなど心憎い演出もそこかしこに。暗くて臭い下水道の中で展開するストーリーは手に汗握ると同時に感動的である。 監督は1948年ワルシャワ生まれのアグニェシュカ・ホランド。現在はフランス在住だが、アンジェイ・ワイダにも指導を受けた女性監督である。『太陽と月に背いて』(1995)、『敬愛なるベートーヴェン』(2006)などを監督し、2008年にはニューヨーク近代美術館(MOMA)で彼女の代表作が数々上映されてもいる。 その監督が言う。「地下の世界をリアルに、人のぬくもりが感じられるように、そして詳細に再現しなければならなかった。その空気感を観客に伝えたかった」と。スクリーンに映る暗闇と座席の暗さがつながり、登場人物とシンクロした自分がいた。原題は“In Darkness ”(暗闇の中で)。下水道の中でほのかに揺れるロウソクの灯り。その中で身を寄せ合うユダヤ人の姿。そして、ラストシーンの、マンホールの蓋を内側から持ち上げたときに降りかかる目が眩むばかりの陽光。「暗闇の中で」という原題を用意しながら実は大いなる光の物語でもあった。 ソハに支援されたユダヤ人たちはこの暗闇のなかで14ヶ月耐え抜いたのだという。 (フリーライター) ※『ソハの地下水道』は、9月22日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。 |
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