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評者◆伊達政保
「日本貧民共和国・イカイノ万歳!」──劇団・新宿梁山泊が作・趙博、演出・金守珍で『百年‐風の仲間たち』を上演
No.3080 ・ 2012年09月29日




 浪花で「在日」の歌う巨人と呼ばれるパギやん(趙博)の、日韓併合すなわち日帝の朝鮮侵略から百年を歌った『百年節』を題材として、劇団・新宿梁山泊が作・趙博、演出・金守珍で『百年‐風の仲間たち』を上演した。それは単に歌を素材とした芝居ではなく、歌と演劇とのコラボレーションによる音楽劇となっていた。また、唐十郎の状況劇場の流れを汲む新宿梁山泊が、座長である金守珍によって、その枠組みから更に一歩踏み出し、「在日」の新たな方向性を打ち出す内容となっていたのだ。
 『百年節』は「百年経てば山河も変わる国も滅べば人も死ぬ、親子三代生きてはきたが……」をリフレインに、併合という名の植民地収奪、敗戦後切り捨ての一方で靖国神社へ合祀、朝鮮戦争と日本の特需、日韓条約で切り捨て、高度成長から置き去り、北朝鮮帰国事業の闇、韓国民主化闘争での帰国子女への弾圧、指紋押捺・外国人登録証、南北政権での分断固定化、日本国内での差別と排斥、関東大震災での虐殺と阪神大震災での共生などの歴史が歌われ、間に半島歌謡、解放歌、韓国歌謡、労働歌等を挿入して、故郷喪失の喜怒哀楽を表現している。しかし、決して民族の望郷悲哀を強調したものではなく、関西フォークが持っていたような、洒落とおおらかさとしたたかさが混在した歌となっているのだ。「人の情けも変わるけど百年経っても変わらぬものは不逞・謀叛に不服従」なんて歌詞はまさにそうではないか。
 さて芝居だ。大阪市生野区かつて猪飼野と呼ばれた「在日」多住地域にある居酒屋「風まかせ人まかせ」が舞台だ。その20周年のパーティーに民族学校の同窓生達等が集まってくる。彼らが語る事象からすると、皆50代だろう。そして人情悲喜劇が繰り広げられる。『百年節』に出てくる題材を、戦前については音楽の勉強会という設定で、植民地歌謡と日本歌謡曲の関係性を通して語られ(オイラなど嬉しくなっちまう)、戦後については個々のエピソードで語られていく。音楽無しにやれば、教条主義的演劇となるところだ。彼らは帰属を巡る対立と言い争いの最後に、ナショナリズムでもコスモポリタンでもなく、「在日韓国・朝鮮人」でも「在日コリアン」でもなく、「在日関西人」として、国籍、民族、人種が混在する「日本貧民共和国・イカイノ万歳!」という結論に達してゆく。おやまあ、オイラが16年前に展開した、自己の現在から新たな民族形成を促す混民族芸術の創出と、それを媒介とした混民族共和国への展望、そのままではないか。難点を言えば、新宿梁山泊の表現をもってしても、南大阪のオバチャン達の存在感にはかなわないねえ。
(評論家)







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