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評者◆秋竜山
リンゴも地球を引っ張っている、の巻
No.3079 ・ 2012年09月22日




 大栗博司『重力とは何か――アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』(幻冬舎新書、本体八八〇円)を読む。重力というものがこんなに面白いとは……。
 〈ニュートンはまず、物体に働く「力」を明確に定義しました。それによれば、物体の運動を変えるものはすべて「力」です。力が何も働いていなければ、物体の運動は変わることがなく、同じ速度でまっすぐに動きます(静止している物体も「同じゼロ速度」で静止したままです)。(略)ニュートンのこの定義によって、物理学は「物体」とそこに働く「力」による現象を記述する学問として確立させました。すると、当然、物体が地面に落ちる現象も、「力」の働きで説明されます。〉(本書より)
 地面に落っこちる。それは地球が引っ張っているから、というのが「万有引力」である。と、ニュートンが気づいた。落っこちる、という動作が引っ張られるという動作である、とはニュートンでなくては気づかなかったのだ。落っこちるのが引っ張られるという発想も、馴れないせいか変てこな気もしてくる。今だに変てこだ。ニュートンで有名なのは「リンゴが木から落ちるのを見て」であるが、実は地球に引っ張られたのだ、なんて誰もいうまい。やっぱりリンゴは木から落っこちたのである。もし、リンゴを取るためにキャタツに乗っている人が、そのキャタツから落っこちたとしたら、「私は今、キャタツから落っこちた」と、いうだろう。まさか「私は今、地球に引っ張られた」とは、いわないだろう。そんなこといったら、「あいつ、ちょっと、おかしいんではないか」と、いうことに間違いない。
 〈「リンゴが木から落ちるのを見てひらめいた」というのが後で作られた伝説だと思われますが、ニュートンの考えによれば、そのとき引力で相手を引っ張っているのは地球だけではありません。リンゴも地球を引っ張っています。〉(本書より)
 この一文で、まず驚いたのは、〈「リンゴが木から落ちるのを見てひらめいた」というのは後で作られた伝説だと思われます。〉とあるが、それでは、ニュートンはリンゴを見て、ではなかったということか。ちょっと残念なような気がしてくる。私はニュートンが、いいものを見てひらめいたと思っていた。リンゴを手にした時の重さは落下するのにナットクのいくちょうどよさのようなものがある。そして、いかにもニュートンらしさもある。画になる光景でもある。ところが、猿が木から落っこちるのを見て、ひらめいたとなると、ひらめきのロマンのようなものが消えてしまうだろう。それに、猿が地球に引っ張られた、というのも笑い話のようなものになってしまうだろう。そして、〈リンゴも地球を引っ張っています。〉と、いうのも、不思議だ。これが万有引力というものだといわれても、あの小さなリンゴが地球を引っ張っているなんて、考えられないことだ。
 〈とはいえ、万有引力が働く仕組みを解明したニュートンも、その「力」がどうして生じるのかまで説明しませんでした。重力が生じる仕組みについては、アインシュタインの登場を待たなければならなかったのです。〉(本書より)
 ちょっと今、ひらめいたことは、〈ニュートンのリンゴ〉という名のリンゴを開発したらどうだろうか、ということでした。







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