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評者◆田中東子
フェミニズムとカルチュラル・スタディーズの融合──文化的な活動を切り口に、ミクロな視点から社会全体を照射できるような研究を続けていきたい
メディア文化とジェンダーの政治学――第三波フェミニズムの視点から
田中東子
No.3077 ・ 2012年09月08日




 本書はこの20年にわたるポピュラー・カルチャーやカルチュラル・スタディーズとフェミニズム理論とのかかわりについて紹介し、主婦向け情報番組やスポーツにおけるジェンダー表象について具体的に分析している。特にユニークなのは、ジェンダーを攪乱するオルタナティブなポピュラー文化を発信する場として、コスプレ文化が紹介されている点だ。田中氏の経歴をうかがうと、フェミニズムとカルチュラル・スタディーズの融合した本書がどうして生まれたかが見えてくる。
 「大学院に入学した1995年は、東大で初めてカルチュラル・スタディーズが紹介された96年の前夜にあたり、その理論的洗礼を受けました」
 90年代のカルチュラル・スタディーズ、そしてポピュラー・フェミニズムの日本への導入の経緯をよく知っている女性研究者の一人だ。しかし、「もともと私はフェミニズムを好きではありませんでした。フェミニズム関係の著作の感情的な部分に少し違和感があって。けれども、大学院で「君の言っていることはフェミニズム的だ」と指摘されることは多々ありました。そんな時に、上野千鶴子氏の『家父長制と資本制――マルクス主義フェミニズムの地平』(1990年、岩波書店)を読み、こんなに論理的にフェミニズムの論文を書くことができるのだと気付きました。『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(竹村和子訳、1999年、青土社)が翻訳され、ジュディス・バトラーが紹介され始めたのもその頃でした。
 海外にはフェミニズムやカルチュラル・スタディーズ、ポップカルチャーの融合した、理論的でしかも具体的な調査を伴う論文が数多く書かれています。それらを紹介しながら、独自の研究をしたいと考えるようになりました」と言う。
 フェミニズムにとってこの20年間は逆風が吹き、女性のためのフェミニズムを、女性自身が必要としなくなったとも聞く。もちろん現在の40代と30代、20代といまの大学生では直面している状況が異なっているだろう。現在教えている大学の女子学生たちは、そうした点についてどのように考えているのだろうか。
 「現在と1970~80年代では社会状況が違いすぎて、かつてのフェミニズムをそのまま教えたのでは響かないという声をよくききます。例えば、結婚して専業主婦になりたいという若い女性が増えていることを単に保守化していると言っていいのかどうか。専業主婦の意味もありようも、また労働環境も、この20年でずいぶんと変わってきている。男性も変わり、結婚の形態も変わりました。現在の男子学生たちは、サークルやゼミの合宿などでも積極的に配膳などをします。家事や育児の負担が分業されるのであれば、「結婚したい=単なる保守化」にはつながらないのではないでしょうか。フェミニズムの理論の中で、変わらず主張しつづける必要のある部分と、もう必要ない部分とをより分けて、整理しておかなければならないのではないかと思います」
 今後の研究の方向性については、どのように考えているのだろうか。
 「2000年代のネオリベラリズムの台頭、福祉の略奪、貧困の拡大、こうした問題が起きたのは、男性社会の問題というより、市民社会のチェック機能が甘かったということだと思います。これらの点について、本書ではきちんと分析できませんでしたが、3.11以前から存在していた問題の積み重ねが、震災以降、可視化され、吹き出してきている。その中でも私は、文化的な活動を切り口に、ミクロな視点から社会全体を照射できるような研究を続けていきたいと考えています」
 本人たちは社会的な抵抗だと思っていないけれども、そのパフォーマンスが結果的に社会を攪乱する、ある種の逸脱、カウンターになっている。コスプレやヒップホップなどのポップカルチャーの中に、その萌芽を見出せることを教えてくれる。フェミニズム、カルチュラル・スタディーズに馴染みのない人にも出会ってほしい一冊だ。

▲田中東子(たなか・とうこ)氏=1972年生まれ。政治学博士。現在、十文字学園女子大学人間生活学部講師。共著書に『現代ジャーナリズムを学ぶ人のために』(世界思想社)、『文化の実践、文化の研究』(せりか書房)など。







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