書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆田口幹人(さわや書店フェザン店、岩手県盛岡市)
遺族と共に、また生きてゆく──笹原留似子著『おもかげ復元師』(本体1200円・ポプラ社)
No.3076 ・ 2012年09月01日




 「当たり前に、みんな明日も生きてると思ってねえか?明日はおめえさんたち、この世にいねぇかもよ」
 明日も生きているのが当たり前だと思っていた。東日本大震災を経験するまでは。
 東日本大震災直後から、甚大な津波の被害を被った岩手県沿岸部で、損傷の激しいご遺体を生前の姿に戻すことに献身した女性がいた。岩手県北上市で、復元納棺師として故人の納棺を請け負う「桜」の代表を務めている笹原留似子さん。彼女を被災地に向かわせたものは、何だったのか。被災地で見送った三百体を超えるご遺体。そしてそのご遺族の苦悩をどのように受け止め、何を感じたのか。「死」を見つめることで、「生」と向き合い、震災で亡くなった一人一人の「死」から、残された私たちが生きる意味を感じてほしいとの思いを込め綴った『おもかげ復元師』を上梓した。
 映画『おくりびと』で広くその存在を知られるようになった納棺師。著者は、「ご遺族の気持ちに寄り添う納棺を」という思いから、「参加型納棺」を通じて見送りを続けている。参加型納棺とは、ご遺族が化粧を施し身体を清め棺に納めることに参加してもらうという意味ではない。悲しみや苦しみの中にあるご遺族の中に入れて頂き、故人のお話を聞き、ご遺族と感情を共有するところから始める納棺のことである。
 著者は、一貫して参加型納棺にこだわってきた。そこには、故人の数だけ人生があり、ドラマがあった。その一つ一つの人生に自分を重ね合わせながら寄り添い、ご遺族が再び前を向いて歩き始める決意をしてもらえる日が来ることを願い関わり続けている。本書の前半部を読み、著者と故人、そして遺族と向き合う姿勢が、被災地での活動の礎となっていることを感じて頂きたい。
 後半は、被災地でのエピソードが書かれている。被災地でも、ご遺族と故人の別れの日を、「終わりの日」ではなく、「始まりの日」という想いで参加型納棺のスタイルを崩さず接し続けた著者の想い、そして背負い込んだものの想像を絶する重さ。損傷の激しいご遺体を、生前の姿に戻す技術を持つ著者にしか為し得ない別れ日を、何が何でもご遺族と共にするのだという覚悟がそこにある。生前の姿に戻ったとき、生きていたときの思い出に再会できる。たくさんの思い出があるからこそ、悲しみの涙のあと、また生きてゆく力が芽生えるのだという言葉が、胸に迫る。復元納棺師として震災に向き合った著者は、ご遺族にとって、故人を生前のお顔に戻すことで思い出をも復元した「おもかげ復元師」だったのではないだろうか。
 東日本大震災、二万人ほどの死者・行方不明者がいる。そのお一人お一人に人生があった。著者が向き合った死は、その中のごく一部かもしれない。しかし、その行動がどれほど尊いものだったのか、著者の言葉の向こうに亡くなられた方々のお顔が浮かんでいた。
 著者は、被災地で向き合った三百人以上との別れを、一人ずつスケッチブックに記録していた。実際のスケッチブックをそのまま本にした『おもかげ復元師の震災絵日記』(ポプラ社)も同時に上梓されている。併せてお読み頂きたい。
 「いま、命があなたを生きている。」
 本書を通じて、いま生きている命と真剣に向き合う時間を作ってみてはいかがだろうか。被災地に暮らす人たちの深い深い悲しみが、生きてゆく勇気に変わることを願いながら。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約