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評者◆伊達政保
福島原発から30キロ圏内の村が独立宣言。東北人のオイラにとって、この小説はリアルだ──村雲司著『阿武隈共和国独立宣言』(本体一二〇〇円・現代書館)
No.3076 ・ 2012年09月01日




 「郷愁とは全体性回復の烈しい欲望である。郷愁にあっては、老人が過激になる。それは失われた青春の全体性──すなわち断念した自己、死んだ友、別のものとして実現したかもしれない歴史の、したがってけっして回復することも充足することもできない総和への渇望であるがゆえに老人の情熱的ニヒリズムによって垣間見ることのできる鮮烈な幻影だからである」(『おい、友よ』平岡正明著、PHP研究所)。
 まるでこの小説のために書かれた言葉ではないか。『阿武隈共和国独立宣言』(村雲司著、本体1200円、現代書館)は、『蒼茫の大地、滅ぶ』(西村寿行著)と『吉里吉里人』(井上ひさし著)を、足して二で割ったような小説である。その影響も部分部分で読み取ることが出来る。郷愁と千年王国が結び付いた時、意に沿わぬ国家からの分離独立という意思が芽生え、結果それは血の海に沈むことで、次の世代へと伝えられていく。西村、井上の二著もそうした線によって展開されている。本書はそれとは異なり、「共和国」を血の海に沈める日本軍を、何十万何百万の日本人がデモで包囲するところで終わるのだ。たしかに痛快で面白い小説でありフィクションである。しかし東日本大震災、福島原発事故以後の、現在進行する現実や問題点をしっかりと踏まえたうえで書かれているのだ。
 小説の内容をバラしたら身も蓋もないが、福島県の一角、福島原発から30km圏内の帰還困難区域・架空の村、阿武隈村が「故郷の山河を棄てろと国が強要するのなら、俺たちは国を棄ててもいい」と「阿武隈共和国」として独立宣言をするところから物語は始まるのだ。そしてその発端は新宿西口、かつて西口地下広場と呼ばれフォーク集会が開かれた場所での、断念した自己が再びアピールを行なう場、から始まる。広場での主張、討論、直接民主主義といったことが、当時参加者でもあったオイラにはピンとくる出だしだ。
 後は読んでのお楽しみだが、中編小説とも言える体裁ではあるが、問題点をゴロゴロ放り出しておこう。戦争、終戦、民主主義、憲法、自衛隊。それだけじゃない。天明大飢饉の強制移住、戊辰戦争、奥羽越列藩同盟。光州事件、イラク戦争、沖縄米軍基地。原発、チェルノブイリ、放射能汚染、被曝、震災瓦礫、瓦礫問題について著者は一面的過ぎる様な気がするがね。原発がなければ郷土は衰退し日本は破滅すると言う同郷の原発擁護者、東北の友人にも同意見の者もいる。なんと、首相官邸前集会の旗論争についても、最後の場面で結論付けていた。
 会津出身で東北人のオイラにとって、この小説はリアルであり、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思う。
(評論家)







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