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評者◆内堀弘
宮澤賢治とブルトン──稀少な書物や自筆原稿などが並ぶ七夕大入札会(@東京古書会館)
No.3075 ・ 2012年08月18日




 某月某日。東京古書会館で恒例の七夕大入札会が開かれた。明治から現代に至る稀少な書物、自筆原稿など約二千点が並ぶ。これらは二日間にわたって一般に公開され(つまり誰でも手にとって見ることができ)、業者に入札を依頼することもできる。
 但し、すべての品には「最低入札値」が表示されていて、入札額はそれ以上でなければならない。
 とはいえ、普段はなかなか眼にできない書物や資料をゆっくり見て回れるのだ。これはとびきりの贅沢な時間だ。
 今回の話題は「宮澤賢治自筆書簡 岩波茂雄宛」だった。宮澤賢治の署名本、草稿、書簡類など自筆のものが古書市場に出ることはほとんどない。
 この三十年間で、無署名の原稿一枚が百万、葉書一枚が百五十万というレコードがあるきりだ。
 今回の書簡は既に全集にも収録されていて新発見ではないが、内容がいい。自分は岩手の農学校の教員だが勉強がしたい。私の田舎くさい詩集を送るので、あなたが作っている哲学や心理学の本と取り換えていただけないか、という懇願だ。便せん二枚の表裏にビッシリと書かれた書簡一通(四十八行)。最低入札値は五百万となっていた。
 たしかに稀少性や内容、今までの経緯からからみても妥当な額かもしれない。
 だが、同じ会場にアンドレ・ブルトンの書簡一通(二十一行)が最低入札値十二万で並んでいるのを見て、私は何ともいえない違和感を覚えた。
 この数年、会場に外国人の研究者やバイヤーが目立つようになった。二十世紀を代表する作家の一人に違いないブルトンの四十倍の宮澤賢治書簡は、彼らの眼にどう映ったろうか。
 そういえば若い外国人が「コレハ子供ノ作文デスカ」と係員に尋ねていた。植草甚一の草稿で「ぼくはニューヨークの街をブラブラ歩いているのが一番好きだった」とはじまるものだ。もちろん彼は真面目に質問をしている。小さな「っ」や句読点に編集者が赤ペンで○やチェックを入れていて、それが先生の添削に見えたらしい。その会話を横で聞いていて、私は可笑しくてならなかった。
(古書店主)







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