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評者◆秋竜山
すごいでしょ?、の巻
No.3073 ・ 2012年08月04日




 すごい一行!! 〈江戸文化とは、中国文化の漫画化だったのである。〉絶句。でも、誰も文句いえないよーな。
 田中優子『江戸百夢――近世図像学の楽しみ』(ちくま文庫、本体八八〇円)に、そー書いてあった。江戸文化もさることながら、日本文化そのものが……。エーキョーをうけたのではなく漫画化としたのが、著者のすごさだ。〈そのころのあの顔この顔〉という項目では、〈人間の「顔」が面白い、と考える人間の意識が面白い。〉と、いうのである。これも著者の面白いとらえかたである。笑うというのはむづかしい。「笑うな!!」といわれたり、「笑え!!」といわれたり。面白いからといって笑うわけにはいかない場合もある。人間の顔が面白いのは、人間の顔は、漫画であるからだろう。
 〈しかもこの傾向は古代から近世に至るまで、急速にすすんで行った。ギリシャ・ローマでは周知のごとく、問題は顔ではなくて肉体だった。日本でも、彫刻はおおよそ決った顔がのっかった全身像であり、絵画ではほとんど顔が見えなかった。(略)しかし、顔が面白い、という意識はそんな時代にあっても、滑稽なジャンルの中には躍動している。同じ絵巻でも、「信貴山縁起」や「伴大納言絵詞」や「鳥獣人物戯画」の中の顔の筋肉は八方に躍動して、見る者の哄笑を誘う。戯画、つまり漫画こそが、「顔」のジャンルなのである。〉(本書より)
 この一文を、誰をさておき、泣いて喜ぶのは、漫画家ではなかろうか。なぜならば、漫画家にはこのような一言がほしいのである。漫画というものを説明する時、どー説明したらよいやら。「ハイ、これが漫画です」と、描かれてある漫画をかかげたとしても、誰も、わかったような、わからんような顔をするだけだ。そこで、漫画家たちが、まるでお経でもあげるかのように、決まり文句として、「漫画の歴史は古く、(みなさん驚いてはいけませんよ)かの有名な、あの『鳥獣人物戯画』が日本の漫画の始まりであります。すごいでしょ」。私など、この決まり文句を何回言ったか(もー、いやになるくらい)。はたして、漫画がその「鳥獣人物戯画」からスタートされたのかどーかは知らないが、そーいうことになっているのである。
 〈江戸に黄表紙というものがあった。これは子供用絵本から出て来た大人の漫画だが、特に顔だけを強調する性質のものではない。(略)つまり大量の顔の出現は、浮世絵師や風俗画家たちが一枚絵を描くにあたって、練習用にそのパーツに関心を寄せた表れなのである。〉(本書より)
 はたして、今の時代、江戸時代の黄表紙のような笑わせてくれる漫画があるだろうか。なんて、すぐそのようなことをいいだすのは悪いクセというものだ。
 〈黄表紙とはすなわちSF漫画である。その黄表紙というジャンルを作ったのが、この恋川春町だ。〉(本書より)
 それはそーと、〈江戸文化とは、中国文化の漫画化だったのである。〉とは、そーだ〓とわかっていても、言葉にするには、ちょっと勇気がいる。ましてや、中国の漫画家の前でいうとしたら。いや、こーいったらよいか。「中国文化は江戸文化の漫画化だったのである」。まさに大笑いだろう。







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