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評者◆内堀弘
息をのむような書物――満身創痍で入手の叶った美書の魅力「バルビエ×ラブルール展」(@練馬区立美術館)
No.3072 ・ 2012年07月28日




 某月某日。練馬区立美術館で「バルビエ×ラブルール展」を見た。といっても、バルビエやラブルールが大好きというのではない。それどころか、ラブルールは実は初めて聞く名前だった。
 二人とも1920~30年代の、いわゆるアール・デコの時代に活躍した画家で、優れた挿絵本やファッションプレートを遺している。
 この展覧会はフランス文学者の鹿島茂さんのコレクション展だった。つまり鹿島さんが蒐集した古書がずらりと並ぶ。それが見たかった。
 『子供より古書が大事と思いたい』(青土社)や『それでも古書を買いました』(白水社)には、この人の尋常ならざる古書への情熱が溢れている。フランスの魅力的な稀覯本や挿絵本は一冊が数十万、数百万もする世界だ。もちろん、鹿島建設の御曹司ではない。これを手に入れるために、家を抵当に金融機関からの借金を重ね、沼地を進むように古書を買い続けた。情熱的な人というより、自制心を保ちにくい人といった方がいいのかもしれないが、いずれにしろ極めて魅力的なコレクションを築くこととなった。
 この展覧会では鹿島さん自身がギャラリートークをされた。コレクターがキュレーターとなって一点ごとに解説していく。すなわちコレキュレーターという新分野を開拓するというのだが、これが本当に楽しい時間だった。
 美術館や博物館が予算で購入したものではない。一個人が、欲しくて欲しくて、満身創痍で入手の叶った美書の数々だ。その魅力を語る言葉は実感的だし、文字通り情熱的だ。そんな話は聴く側も幸せにする。
 1920~30年代、日本は一円本全集(エンポン)による空前の大量出版の時代を迎えていた。すると、それに抗するように個性的なリトルプレスがいくつも登場する。秋朱之介の以士帖印社。五十沢二郎のやぽんな書房、鳥羽茂のボン書店、平井博の版画荘……。彼らは身を賭すように書物を送り出し、いつのまにか姿を消した。
 鹿島コレクションを見ていて、あの時代、彼らが息をのむように垣間見たのものが、私にもわかったような気がした。彼らもまた沼地を進むようだったが、でも幸せであったに違いない。
(古書店主)







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