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評者◆秋竜山
笑えないのに笑えばよいのだ、の巻
No.3071 ・ 2012年07月21日




 外山滋比古『朝採りの思考――シンプルな目を育てる』(講談社、本体一一四三円)を手に取る。もくじに〈笑〉という文字があるかしら。あった。〈方法としての笑〉。私にとって、本の中に笑いという文字が一字でもあれば、価値ある本というか合格本ということになる。だから、本を手にした時、儀式のようにパラパラを何回となく行なう。笑うという文字を見つけるためだ。そういうことでは本書には笑いをテーマにした項目があったから一〇〇点満点である。どの項目も飛ばして、〈方法としての笑〉を読む。〈いつごろからか、頭のよいものほどよく笑う、とひそかに思うようになった。〉と、著者はいう。
 〈頭の優秀な学生の方がよく笑うのである。〉〈C大学の学生はまじめなのだが、生気がなく、つまらなそうな顔をしている。こちらが、おもしろいことを言っても反応がにぶい。A大学はそれにひきかえ、うてばひびくように、わっと笑うのである。さしておもしろくないところでも笑う。教師もはり合いがあって力が入る。終わったあとの疲れもすくない。B大学は、ほぼ中間的であった。〉(本書より)
 笑いというものほどムズカシーものはない。みんな笑っているのに、自分だけ笑えない。そーいう時、どーしたらよいのか。笑えないから笑わないでいてよいのではないか。それには勇気がいるだろう。「こいつ、みんなが笑っているのに、笑ってない。笑えないということか。笑えないということは、馬鹿だからだろう。そーだ、馬鹿なんだ」なんて、思われないだろうか。そー思われたくない。それには、笑うしかないだろう。笑えないのに笑えばよいのだ。それによってみんなから差別されることもないだろうから。「イヒヒヒ……」と、笑ってみせるのである。よく考えてみると、私の場合はそーだった。みんな笑ってるのに、それのどこが笑えるのだ!! なんて、心の中では思いつつ「イヒヒヒ……」と、笑ったものであった。だからといって不快感をもったことはない。笑うという動作は、やっている内に本当の笑いのような気分にさせてくれるものでもある。〈頭のよい子ほどよく笑う。早く笑うようになる子ほど頭がよい、ということになった。頭で笑うということが、ここでも承認されている。(優秀児教育世界大会、何年かに一度開かれているらしい。)〉子供の頃からよく笑うということをしていると、よく笑う大人になるだろう。いや、まてよ。よく笑う子供であったが、大人になると全然笑わない人間になってしまったということも、ありえるかもしれない。大人になってわかったことは、「こんな世の中、笑えるなんてもんじゃァない」と、いうことだ。
 〈方法としての笑いは薬である。笑いをバカにして笑ってはいけない。〉〈モンテーニュはエッセイで「笑わない医師はよく治さない」という意味のことを言っている。持病に苦しんだモンテーニュの経験から生まれたことばかもしれない(略)〉(本書より)
 どこで笑うか。何を笑うか。笑うべきところで笑う。笑ってはいけないところでは絶対に笑うべきではないだろう。「笑え」と、いわれたり「笑うな」と、いわれたり、笑いというものは、まず、頭の中でよく考えてから……と、いうことか。







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