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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3071 ・ 2012年07月21日
パキーンとみなぎる力が世界を変えてゆく
▼世界一力もちの女の子のはなし ▼サリー・ガードナー 作/三辺律子 訳 ジョシー・ジェンキンスは八歳九ヶ月の女の子。見た目はとてもきゃしゃな、ふつうの女の子だけど、とてつもない力のもちぬしなんです。 あるとき、学校の柵に頭がつかえて、ぬけなくなってしまった男の子がいた。それを見たジョシーは、腕から指の先まで、パキーンと力がみなぎってくるのを感じたんです。そして柵をもつや、ぐっとおしひろげて、男の子を助けてあげた。またある日のこと、ジョシーが校庭を出て、大どおりへ歩いていくと、坂の上から、無人のバンがつっこんできた。ジョシーはパキーンと力がみなぎってくるのを感じて、なんと、車を素手で受けとめたんです。みんなは何が起きたのかわからず、びっくりするというより、信じられなかった。そしてジョシーは、力じまんの男すら力くらべで負かして、イギリス一番の力もちといわれるぐらい有名になりました。 そんな彼女に、ミスター・ツースーツが目をつけます。ジョシーだけじゃなく、ジェンキンス一家をニューヨーク旅行に招待するという口実で、ジョシーを全米力くらべに出させたんです。まるでジョシーの力技はサーカスの出し物で、ミスター・ツースーツはよくばりなサーカス団長みたい。ジョシーを使ってひともうけってわけ。でも、ジョシーの力は見世物なんかじゃない。そのことに気づいた彼女は……。パキーンとみなぎる力からはじまった、ジョシーの、世界との出会いの物語。(5・28刊、四六判一〇四頁・本体一二〇〇円・小峰書店) オオカミを怖がらせたヤギの三味線歌 ▼ゆうだち ▼あきびんご 作南の島に夕立がやってきました。ごきげんだったあおぞらが、ゴロゴロとぐずりだし、やがて大声で泣きはじめます。ずぶぬれになったヤギが、オオカミの家のまえでこまっていると、「どうぞ、こちらに、おはいりなさい。すぐにやむでしょう」とオオカミが手まねきしました。ああ、ヤギさん、オオカミに食べられてしまうんじゃないかと思ったら、なんとオオカミは三味線を手にして、歌いはじめたではありませんか。危険を感じたヤギも、三味線をひきながら、ゆっくりとうたいはじめました。「このまえ たべた オオカミ 3びき/そろいも そろって いくじなし/ゆうだちが きたら おかしくなる/なにを しでかすか わからない」。だんだんヤギの声が大きくなっていきます。オオカミはおそろしくなってきて、逃げ出す始末。それを見て、ヤギも反対方向に、一目散に逃げていきました。そして夕立がやみ、なにごともなく、島の一日がおわります。カリブ海にうかぶトリニダード・トバゴ共和国に伝わる、(もともとは)ヤギとライオンの民話の絵本です。(6月刊、26cm×22cm三二頁・本体一〇〇〇円・偕成社) 聖書のおはなしをこどもたちにつたえる ▼せいしょから10のおはなし――ちいさなてんしたちへ ▼サラ・ドッド 文/ドゥブラヴカ・コラノヴィッチ 絵/女子パウロ会 訳編 第一話は「せかいがはじまったとき」。アダムとエバは、木の実だけは食べてはいけない、というかみさまの教えをやぶって、その実を食べてしまいました。こうしてアダムとエバは、かみさまの楽園から出て行かなければならなくなります。人間のせかいがここからはじまったのです。 第二話「かみさまのおいいつけをきいたノア」では、かみさまをだれよりもたいせつに思っていたノアが、かみさまのいいつけをまもって、大きなふねを造ります。ひとがふえ、けんかがたえない世界は、ふりつづいた雨で水にしずみ、ふねにのったノアと家族、どうぶつたちは、新しくてうつくしい世界におりたつことができたのです。 第三話は「かみさまとアブラハムのやくそく」。アブラハムとおくさんのサラに、かみさまが男の子をさずけてくださる、といいました。でも、ながいあいだ待っても、なかなかこどもは生まれません。ある日、天使たちがお告げにきて、かみさまはかならず約束をまもってくださるといいました。次の年、男の子が生まれ、イサクと名づけられます。こうして、アブラハムとイサクの子孫は、イスラエル人とよばれるようになり、やがてイエスが誕生するのです。せいしょのおはなしをわかりやすくつたえる、生まれ来るちいさなてんしたちへのおくりものです。(10・1刊行予定、24cm×24cm二四頁・本体一三〇〇円・女子パウロ会) 美しくも不思議な万華鏡の物語世界 ▼万華鏡の少女 ▼牧瀬かおる 真希とミチルは従姉妹どうし。毎年夏休みになると、海に近いミチルの家でいっしょにすごしていました。そんなある日、真希は砂浜で、万華鏡を見つけたのです。のぞいてみると、筒の中には夢の花火のような幻想的な世界がひろがります。そのうつくしさに、二人はすっかりとりこになってしまいました。 万華鏡は赤い屋根の家に住む、明日香という少女のものでした。二人はその家に、拾った万華鏡をとどけに行ったのです。幼いころから病弱だという明日香は、ひきこもりがちになり、部屋ぜんたいが鏡張りの、万華鏡のような部屋にひとりでいるのだと、明日香のお母さんはいいました。でも、ほんとうは病気なんかじゃなかったんです。浜辺で万華鏡をなくした明日香は、おちこんでしまって、そのあと海の事故で死んだのでした。万華鏡のような部屋は、おちこんだ明日香を元気づけようと、両親が作ったものでした。明日香の魂はその部屋に二人をいざない、鏡の世界へとミチルを連れ去ってしまいます。そして、その家じたいが、やがて幻だとわかるのです……。万華鏡の写真や、作り方まで図解で入っている、美しくも不思議な物語です。(7・23刊、A5判六四頁・本体八〇〇円・イーフェニックス) 姫路空襲で焼かれた妹の記憶 ▼よしこがもえた ▼たかとう匡子 作/たじまゆきひこ 絵 まるで昨日のことのように思い出されると、作者のたかとうさんは書いています。一九四五年七月三日の夜、姫路空襲のさなか、小学校一年生だったたかとうさんは、手をつないでいた三歳の妹よしこさんを奪われてしまったのです。この絵本は、たかとうさんの実話をもとに作られました。 けたたましい空襲警報のサイレンのなか、たかとうさんの家族は外へとびだしました。町も家も道路も空も、真っ赤に燃えて逃げ場がありません。そのとき、近くで焼夷弾が炸裂して、たかとうさんとよしこさんは吹き飛ばされ、たたきつけられました。そして、よしこさんの髪の毛に火が着いてしまったのです。頭も顔も、焼きなすのようにこげてしまった。空襲で多くの人が死にました。よしこさんもその一人でした。「このころ/世界中の/たくさんのよしこが/死にました」。忘れないために読みつがれる絵本です。(6・20刊、A4変型判三二頁・本体一四〇〇円・新日本出版社) 掌にすっぽりと収まる詩歌のことばの数々 ▼掌の本シリーズ こころの詩・Ⅰ/しぜんの詩・Ⅰ/いのちの詩・Ⅰ/ありがとうの詩・Ⅰ 銀の鈴社から「掌の本」という豆本のようなシリーズが刊行されました。掌にすっぽりと収まる大きさの本で、それぞれ「こころの詩」「しぜんの詩」「いのちの詩」「ありがとうの詩」と題され、テーマにまつわる詩が集められています。 同社編集長の柴崎俊子さんは「『掌の本』について」に、このシリーズを刊行した思いを書かれています。出発点は、まだ物資貧困な終戦直後に手にした『啄木詩歌集』でした。9cm×6cmと掌サイズの本で、六四頁の素朴な本でした。中学校に通う長い道すがら、朗誦しながら頁を繰ったこの掌の本は、いつしか血肉となり、「人生の岐路で前進のきっかけになってくれたことばたち」だったといいます。『啄木詩歌集』がもたらしてくれたこの幸せを、読者と分かち合いたい。そんな思いが「掌の本」に結晶化したのです。『ありがとうの詩・Ⅰ』の最後には、「世の中の明るさのみを吸うごとき/黒き瞳の/今も目にあり」という啄木の一首が収められています。ポケットにしのばせて、くりかえし味わいたいことばのてのひらです。(5・5刊、A7判七二~八〇頁・本体各一〇〇〇円・銀の鈴社) 暑い夏にはこれ!70のおばけが勢ぞろい ▼こんやはなんのぎょうれつ? ▼オームラトモコ作 蒸し暑い夏がやってきました。肝だめしやおばけ屋敷で、心も体もひんやりしたい、そんな季節の到来です。ドキドキ、ワクワク、もっともっと刺激がほしいおきゃくさまのために、とっておきのおばけショーをご用意いいたしました。おばけの大ぎょうれつ、本日夜の2時にかいさいいたします。 やってきたのはドラキュラにおおかみおとこ、はんぎょじんにジャック・オ・ランタン、フランケンシュタインと国際色ゆたか。ざしきわらしやひとつめこぞう、あめふりこぞうにはなこさん、なんどばばあにすなかけばばあと、日本人がよーく知っているおばけもせいぞろい。いやいや、それだけではありません。ぬれおんなにろくろっくび、うみぼうずにいったんもめん、ぬりかべと、なつかしいおばけも出てきます。おばけの園「まんげつおやど」へいらっしゃいませ。こうして総勢70名のおばけが勢ぞろい。暑い夏にひんやりできる、おばけのぎょうれつパレードです。(6月刊、23cm×23cm三六頁・本体一三〇〇円・ポプラ社) |
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