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評者◆小嵐九八郎
楽しさ、しなやかさで書く批判――芥川喜好著『時の余白に』(本体二五〇〇円・みすず書房)
No.3071 ・ 2012年07月21日




 二十代三十代よりは幾分増しだが、段段と貧乏になっていくので、購読している『読売』『東京』『朝日』の三紙の中で『読売』を止めようかと思っている。なに、原発の維持に熱心過ぎて、当方の不安ばかりでなく、近現代のどんづまりに正確な眼を向けないからである。しかし、財布を握っているかみさん殿が、この三十年間くらい『読売』の日曜版の「日本の四季」とか「名画再読」にぞっこん参っていて、「現物の絵が生きるのよ。画家の気持ちがその時代と一緒に解るのよ、あんた、解らないでしょう?」と続けたがるのである。ま、当方も、新聞というのは、うんと昔“ブル新”と呼んでいたけど、この新聞には記事の現状万歳とは別に“物語”があり、とりわけ「人生相談」の欄には小説の素材ばかりか“他山の石”や覗き趣味などの厳しさ楽しさがあり、やっぱり最大部数という庶民感覚の重大さもあるし、購読し続けるしかないようだ。
 その『読売』に、本当は「人生相談」以外にもっと面白い欄がある。語呂は良くないけれど「時の余白に」というエッセイのところだ。第四土曜の朝刊に載っているはずで、もっと文字数を増やして、新聞媒体にはないゆったり、のんびり、しかし実に反骨に溢れているのを土曜ゆえに読みたいのに、近頃、どういうわけか文字数が減り、うーん、ど偉い主筆はどう考えているのか、読んでいないのか。阪神タイガースのファンは、斜めに構えちまう。
 新左翼があまりに極少数になりかけた頃から、周りへの気配りが尋常でなくなり、フツウの市民になっても治らず、回りくどいけど、この「時の余白に」が、そのまま『時の余白に』というタイトルで全面改稿されたものが出版された。著者は、「日本の四季」「名画再読」をも連載してきた芥川喜好氏。みすず書房刊、本体2500円。
 今度は、美術、建築、民藝、音楽、和紙づくり、道具、経済、宗教と対象は広がり、要も、えっ、『読売』の近現代への降参とはまるで別、批判を“周縁部”の凄味、楽しさ、しなやかさで書いている。「この一冊」か。







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