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評者◆編集部
「日が経つにつれて、悔しい思いがこみあげてくる」――10月に竹駒町滝の里に移転。中心市街地の復興、いまだ見えず~陸前高田市・伊東文具店~(下) 
No.3070 ・ 2012年07月14日




 岩手県陸前高田市の書店「伊東文具店」が昨年十二月十五日、JR大船渡線(休止)の竹駒駅跡に隣接する土地に約三五坪の仮設店舗をオープンした。東日本大震災前にも後にも陸前高田市の書店といえば、伊東文具店だけ。その経営者の身内が不幸に見舞われながらも、書店業を再開させた同店をレポートする。
 同時に、陸前高田市の復興への歩みも徐々に進んでいた。高田街道沿いには仮設店舗「陸前高田 未来商店街」、コンビニエンスストアのローソン、スーパー「マイヤ」などの店舗が建ち始めた。そうしたなか、伊東文具店の仮設店舗が建つ鳴石地区の高台も、土地所有者である病院がその土地で再開することになった。
 「お客さんに『いつから本屋さんを再開するのか』と尋ねられることが増え、この場所でプレハブの建屋を増やして、書籍・雑誌も販売しようとも考えた。しかし、病院から再開の話があって移転先を探すことになった」(同)
 「書籍を置いている店が陸前高田市にはありませんでした。大船渡か気仙沼まで行かないと買えなかったので、早く始めてほしいとお客さんから言われ続けました。とくに年配のお客さんからの要望が多かった。なかには、文庫本の好きなおじいさんがいて、『このくらいのスペースは割いてほしい』とお願いされるほどでした」(紗智子店長)
 書店も営業できる広い土地を探していると、ちょうど農協が所有する土地を借りることができた。津波の被害で今は休止しているJR大船渡線の竹駒駅に隣接する立地で、国道三四〇号線(高田街道)沿いの土地だ。
 移転先が決まり、十二月初めに鳴石地区の仮設店舗を閉店。十二月十日には新たな仮設店舗で文具店をプレオープン、十五日には書籍・雑誌を含めた書店形態でグランドオープンした。坪数は文具一二坪、書籍・雑誌二三坪、合計三五坪。被災した二店舗の在庫が全額入帳(支払い免除)されたことで、同店の初期在庫と数カ月分の仕入れ代に充てることができた。
 「これまでの銀行借入れは支払いの条件を変更して返済しています。ですから、日販には助けられました。初期在庫は一〇〇〇万円以上かかりますから、流された本すべてが入帳されたことで銀行借入れしなくて済みました。また、日販の古屋文明社長が店まで足を運んでくれましたので、とても元気付けられました」(孝会長)
 オープン当初は日商四〇万円ペース、多いときでは五〇万円近い売上を叩き出した。大船渡市のみなとや書店と同様に、震災の写真集やTシャツなどの震災関連商品が売れたという。「土・日曜日にはうちの前に観光バスが停まって、写真集やグッズなど震災関連の商品を買っていかれます。また、地元の方々が義捐金や支援のお返しとして一〇冊、二〇冊と写真集をまとめて買っていかれました」(同)。
 昨年四月十五日のオープンから一年以上、移転後からは半年を経過して、今では売上も落ち着いてきたという。ただ、現店舗は他の仮設商店とは孤立した立地にある。そのため、孝会長は中小企業基盤整備機構に申請して、「陸前高田 未来商店街」やスーパー「マイヤ」などが立ち並ぶ竹駒町滝の里近辺に再度移転することにした。
 新店舗は六月に着工する予定だったが、八月に延期となり、十月には仮設店舗が完成する予定。店舗の建設費やテナント料は無料。売場は四五坪、事務所兼倉庫が三〇坪で合計七五坪の店舗となる。
 「行政は街づくりの青写真を描いていますが、津波で被災した中心市街地は区画整理や地盤改良などの問題があるため、目に見えた動きはありません。そうしたなか、多くの事業主は高田街道沿いなどに仮設店舗を設けて営業している状況です。いずれは中心市街地で商売を再開したいと待ち望んではいますが、街の再生はこれからでしょう」(孝会長)
 「一年前を振り返ってみると、震災から四月十五日までの一カ月間はすごく長く感じられました。店の準備を進めているなか、親族や友人が亡くなったと知らされました。そのときは亡くなったという実感が全然沸かなかった。だから仕事に集中できました。しかし、一年経った今は仕事に集中していても、どこか震災のことを考えています。日が経つにつれて、悔しい思いがこみ上げてくるのです。薄れるどころか思いはどんどん強くなって……」(紗智子店長)
 震災から一年が経過し、地元住民が日常の生活を取り戻し始めたとはいえ、陸前高田市の街並みは瓦礫の山と荒涼とした大地が広がるのみ。同市の復興にはまだ時間はかかりそうだが、さまざまな人の支援によって、伊東文具店は書店として復活することができた。「多くの問屋さん、メーカーさんが助けてくれました。おそらく新聞や雑誌では、私たちが再開して頑張っていると報じられているかもしれませんが、逆です。私たちがやらせてもらっているのです。問屋さんにさまざまなものを用意していただいた、多くのお客さんに来ていただいた――。すべて周りの人に支えていただいたおかげで私たちの今があるのです」(同)。







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