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評者◆芳沢光雄
難解なロングセラーを詳解! あらゆる問題の対処法を指摘――数学嫌いの人の考え方を変えたいと日頃から考えている
いかにして問題をとくか・実践活用編
芳沢光雄
No.3070 ・ 2012年07月14日




 あらゆる分野の問題解決にヒントを与えてくれる、数学者G・ポリア『いかにして問題をとくか』(丸善出版)の初版発行は一九五四年。昨夏テレビでの紹介を受けて、再び人気が爆発したロングセラーだ。本書は、その“実践活用編”である。
 「ビジネスや日常生活に応用できると言われたら、普通の人は飛びつくでしょう。注文が一気に増えたそうです。しかしポリアの本は難解です。数学の研究仲間でさえも「あまりよく分からない」と言う(笑)。本当は分かった顔をしているだけの人が多いと思います。今の人は文庫や新書を読むのと同じ速度で読もうとするでしょう。あれではダメ。一日一ページ読めば十分、そういう本です」
 執筆に至る経緯が実に面白い。
 「どこが役に立つのか分からないと言う声が耳に入ってきていました。離れた階段を埋める本を出さなければいけないなと。ちょうどそのときテレパシーが通じたかのように、執筆依頼の連絡があったのです。本当に不思議です」と振り返る。さらに、「ポリアとは、数学の研究分野もほぼ同じ。しかも私の亡くなった父とポリアの表情が似ているのです。見えない糸でつながっているようですね」。
 数学の啓蒙活動においてつとに有名な氏であるが、特に強調してきたのは、1試行錯誤すること、2一歩一歩論述すること、3見直すこと。これはポリアの4つのステップ「1問題を理解すること」「2計画をたてること」「3計画を実行すること」「4ふり返ってみること」に深く関わっていることから、そのあまりの共通性に驚き感激したそうだ。「ポリアはそれを強くはっきり書いている。数学教育の活動をする上で、私自身はとても勇気づけられた。あの本と出会っていなければ、ここまで強く言えなかったでしょう」と熱く語る。
 先の三つの強調点は、数学という教科だけに当てはまるわけではない。
 「国際化、国際化と言うけれども、単に英語がしゃべれればいいというわけではない。立場も考えも育ちも違う人に、きちんと物事を筋道立てて説明できることが、本当の意味での国際化。いかに納得させ、理解させるかは、本書の各章を総合的に理解すれば必ず身につくはずです」
 教育現場での実態は、「数学だけでなく、一歩一歩説明する論述力が非常に低下している」。それを助長しているのが、マークシート方式と考える。「いろいろな大学が合否の発表を素早くやるために、次々とマークシートを導入した。しかしそれは答えを当てるもので、導くものではない。当てるだけの解答だから、見直しもしなくなっている。「何となく」とか「むかつく」という言葉ばかりが使われますが、それでは何の説明にもなりません」と危惧の念を表明する。
 「その弊害を公言していることから、「お前楯突いて大丈夫か?」「嫌がらせを受けないか?」と同情の声もたくさんもらっています。しかし自分の名前で正しいと思う信念を述べているのだから、匿名の誹謗中傷などには負けません。五・一五事件で暗殺された犬養毅が私の曾祖父ということも少し関係しているかもしれませんね」
 本書を特徴づけるのは、ユニークな比喩や事例だ。例えば第一三章「見直しの勧め」では、二〇一一年夏に行われたAKB48のじゃんけんトーナメントにおける各種報道が伝えた、上位八人の八連単を当てる確率の誤りを正すなど、さまざまなジャンルの話題がちりばめられている。「数学を数学の言葉で納得できるのは、数学が得意な人。数学が苦手で嫌いな人には、専門用語だけで説明は難しい。そういうとき、説明したいことの本質は何かと考え、それと同じ構造をもつ社会現象がないかと探します。とにかく数学嫌いの人の考え方を変えたいと、常日頃から考えている成果です。でも、他の方が流用しちゃうこともあるけど、いいでしょう」と苦笑い。
 大学で二年間、後期の夜間に数学が苦手な人を対象にした、就活対策の算数復習授業をボランティア的に行った。単位とは全く関係がなかったが、延べ一千人が履修した。「「芳沢さんはすごい、タダでやるときは本当に行動するんだね」と言われました。一生懸命訴えれば、必ず響きます。実際喜んでもらえた。絶対に忘れられない思い出ですね。そういう人たちの応援に応えたいという気持ちが、執筆を一気に後押ししてくれました」と感動を蘇らせる。
 「私は数学ができないことはちっとも悪いことではないと考えています。むしろ嫌いな人たちを作ってしまったことに対して、申し訳ないという気持ちです。私は全面的に嫌いな人の味方です」
 夜間授業では“もっと早く教わりたかった”という感想が大半を占めたそうだ。本書の読者もきっと“もっと早く読みたかった”と思うに違いない。超ロングセラーに、またとない“伴走者”が現れたと言えるだろう。

▲芳沢光雄(よしざわ・みつお)氏=1953年東京都生まれ。桜美林大学リベラルアーツ学群教授。理学博士。『新体系・高校数学の教科書(上・下)』(講談社ブルーバックス)など著書多数。
難解なロングセラーを詳解!
あらゆる問題の対処法を指南
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