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評者◆添田馨
自ら震災後にあることの根拠――「IOB」(創刊号2012・3・31)をめぐって
No.3070 ・ 2012年07月14日




 「IOB」(創刊号2012・3・31)という詩誌の存在を知ったのは、つい最近のことだ。“ヨブ”と読む。旧約聖書のあの「ヨブ記」から来ている。
 私は思うのだが、一篇の詩が生まれる契機と、一冊の詩誌が生まれる契機のあいだには明らかに同位性がある。運命の影がそこには必ず射している。目には見えないが、時代的な関係の糸がそこには縦横に織り込まれている。「IOB」は生野毅と菊井崇史の二人が核になり、毎回特集を組み、それに相応しいゲストを呼んで誌面を構成していくスタイルだ。他に沢山ある詩の雑誌とあまり変わらない。でも何処かが違うと感じさせるものがある。それは何か?
 詩と詩誌の生成の同位性と私は言った。ほとんど無意識のこの連関が、「IOB」の場合は、最初から殊更に意識化される。いや、雑誌全体が何かを発信するというより、自らが身にまとった時代の糸の解きほぐしを徹底させている。生野と菊井の最初の邂逅の事情がまず語られ、「ヨブ記」という書物との出会いが語られ……というように、契機はそれに止まらず次々とその先のほうへ展開されていく。そして、昨年3月11日の大震災が決定的な機縁をもたらしたことが、菊井の口から告げられる。(「人を棄てたる彼岸の、深淵なる言葉〓〓Existentia of IOB」)
 「IOB」という詩誌は、自ら震災後にあることの根拠の見えない中心へと巡礼のようにひたすら降下していく。詩作品があり、散文作品があり、映像作品がある。そのどれもが、宙空を浮遊している。その感じは、2000年代の詩が個々の作品レベルで探査しようとした自己生成の根拠を、あたかも詩誌の編集レベルにおいて蘇生させようとしているかのようである。
 震災後の東京の町の光景は、震災前と何も変わっては見えない。だが、実はその変わらなさの内に、見えない断層は無数に走っている。意味を生み出すものがそこに間違いなく隠れているという保証はなにもない。徒労なのかもしれない……詩作という行為はつねにそうした思いとの戦いだ。そうやって、共に闘う者たちが送り届けてくれる信号を、私も受け損なうことだけはすまいと思う。







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