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評者◆編集部
取引先の全面支援でスピード再開――身内の死乗り越え、地元活性化に一役 ~陸前高田市・伊東文具店~(上)
No.3069 ・ 2012年07月07日




 岩手県陸前高田市の書店「伊東文具店」が昨年十二月十五日、JR大船渡線(休止)の竹駒駅跡に隣接する土地に約三五坪の仮設店舗をオープンした。東日本大震災前にも後にも陸前高田市の書店といえば、伊東文具店だけ。その経営者の身内が不幸に見舞われながらも、書店業を再開させた同店をレポートする。
 陸前高田市で伊東文具店を運営している株式会社「山十」は一九六一(昭和三十六)年三月五日に創業。おもに書籍・雑誌と文具を取り扱っており、震災前にはJR大船渡線「陸前高田駅」の駅前通りに位置する商店街に伊東文具店、同駅と隣の脇ノ沢駅のほぼ中間に位置するショッピングセンター「リプル」内に「ブックランドいとう」を展開。社長を務める伊東進氏の一家が伊東文具店を運営。社長の兄にあたる会長の伊東孝氏の一家がブックランドいとうを切り盛りしていた。
 しかし、東日本大震災の大津波によって、二店舗とも跡形もなく流されてしまった。さらに、伊東文具店を運営していた伊東社長夫妻と営業を担当していた長男の三人が大津波の犠牲となり、帰らぬ人となってしまった。
 陸前高田市の震災による被害は、死者一五五五人、行方不明者二二八人、倒壊家屋三三四一棟。とくに人的被害は岩手県内で最悪だった(岩手県総務部総合防災室発表、六月六日現在)。
 「震災の直後は、身内の一人だけ(遺体が)見つかっておらず、本当にそれで手一杯で、仕事のことを考える余裕はありませんでした。ただ、盛岡市の文具卸会社『平金商店』の社長が震災後に何度も訪ねてきてくださって、再開の話をしてくれました。新学期が始まれば文具が必要となります。それが四月二十日と迫っていましたし、平金商店さんの後押しもありましたので、四月初めに文具店のみの再開を決めました」(孝会長)
 ただ、孝会長の次女で現在店長を務める紗智子氏は「三月十八日に(進)社長の遺体が発見され、二十五日には火葬を済ませました。社長夫妻とその長男が亡くなられたので、再開するとは思っていませんでした」とその決定に驚いたという。
 自宅は津波に流されたものの、難を逃れた孝会長の一家は、伊東文具店の再開に向けて動き出した。店舗や商品どころか、什器もレジも顧客台帳も何もかもが流されてしまったが、平金商店がプレハブのレンタル建屋の手配から什器、文具の調達などあらゆる面でバックアップしてくれた。再開の場所を探していた孝会長は高台にある鳴石地区の土地で営業の了解を取り付け、四月十五日に仮設店舗を一二坪でオープンした。
 「本を置くには一二坪では狭かったので」(孝会長)、「本も販売したかったが、こちらの問題で一気にそこまで手は回らなかった」(紗智子店長)――との理由でまずは文具店を再開させた。地元新聞の「東海新報」に再開の広告を掲載する一方、平金商店は岩手県内の報道関係者にその情報を流した。オープン当日は地元住民だけでなく、県内外からの報道関係者も訪れ、三〇〇人を超える人出で賑わったという。
 「最初は、こういう状況ですから、買い物に来てもらえるか心配でした。ですが、いざ蓋を開けてみると、食料品以外を取り扱う店がありませんでしたから、身の回りのものを求めるお客さんが大勢いらっしゃいました。ちょうど避難所となった(陸前高田市立)第一中学校の体育館から数分の場所でしたので、本当にありとあらゆるものが売れました」(孝会長)
 「初日は本当に大勢の人が来てくれました。油性ペン、ガムテープ、紙紐などさまざまな日用品を、あれもこれもと購入してくださいました。お子さんも来てくれて、レターセットなどの雑貨をみて喜んでいました」(紗智子店長)
 当初は文具のみの取り扱いだったが、書店として地元に認識されていたこともあり、客からは書籍や雑誌の注文も寄せられた。すでに出版物の流通を担う取次会社・日販の物流機能も回復しており、こうした顧客の要望にも対応。さらに、地元の新聞社や印刷会社が発行する震災の写真集など、数は少ないが店頭で販売した。
 また、昨年五~九月の毎週土・日曜日、竹駒町の高台にある自動車教習所で開かれていた「けせん陸前高田朝市」に出店し、文具を販売。仮設店舗でもゴールデンウィーク期間中には「お菓子のつかみ取り」、お盆休みには「ヨーヨーすくい」などを実施した。避難所暮らしの人たちや近隣住民のためにと、こうしたイベントを企画し、出張販売にも精を出した。
(つづく)







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