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評者◆沢田史郎(丸善津田沼店、千葉県習志野市)
トホホ感満載のコミックエッセイ――中川学著『僕にはまだ友だちがいない――大人の友だちづくり奮闘記』(本体八八〇円・メディアファクトリー)
No.3069 ・ 2012年07月07日




 「大人の友だちづくり奮闘記」というサブタイトルが示す通り、マンガ家の卵である著者が、友人の結婚式に〝呼ばれなかった〟ことをきっかけに、「友だちとは何か?」という疑問に突き当たる。と同時に、【休日に遊ぶ相手が見つかりません…】という帯の惹句そのままの現状に、今更ながらに焦りを覚え、三十五歳にして友だちづくりを志すという、トホホ感満載のコミックエッセイ。
 そもそも「友だち」って、つくろうとしてつくるもんじゃないでしょ、って(笑)。出会った時の自己紹介に始まって、徐々にコミュニケーションが増えていく過程で、趣味趣向やものの見方・考え方が一致する者同士、気付けば仲良くなっている。フツーはそういうもんだよね。
 ところがこの著者の場合、それが出来ない。故にこれまでは、焼肉も映画もカラオケも一人、届くメールは派遣会社からのお仕事紹介ばっかりで、電話をくれるのは故郷の母親ただ一人。こんな生活、もうイヤだーっ! と一念発起して、まずは自己啓発本を読み漁る。しかし五冊を読破したところで、ふと気付く。
 【いかんいかん、全部実践してたらボクがボクでなくなってしまう】
 自己啓発本って、往々にしてそういうことあるよね。本屋の私がこんなこと言うのもなんだけど。書かれている多種多様な方法論も、そこに至るまでの考え方の道筋も、お説ご尤もとは思えども、こちとらそれが出来ないから困っている訳で、喩えるなら、どうすれば足が速くなるかを尋ねて「速く走れば良いんだよ」と返されたような、それが出来りゃあ苦労しねぇよ的アドバイスが目立つように思えるのは、私の読み方の問題なんだろうか……?
 ってな疑問はさて置いて、中川氏。本を読むより行動あるのみと悟って以後は、Twitter始めるわ、facebook始めるわ、オフ会に出席するわ、挙句の果てには通りすがりの教会に飛び込んで、礼拝どころかクリスマスパーティーにまで参加するわ、もうどんだけ社交的なんだよってぐらいあっちこっちに、かなり無理をしながらも顔を出す。にもかかわらず、友だちが出来ない。
 一口に「友だち」と言っても、街で出会ったら挨拶を交わす程度の仲から刎頸の友まで、その交わりの濃さ、強さは、境い目の曖昧なグラデーションだと思うのだ。
 例えば、そろそろタメ口を利いても問題無いのか、まだ馴れ馴れしいと思われるのか、その判断の明確な基準なんかどこにも無くて、みんな何と無く様子見しながらお互いの距離感を調整しているもんだと思うけど、中川氏はその〝何と無く〟がどうやら苦手で、まだ「他人」なのかそろそろ「友だち」の領域なのか、迷いまくった結果、めっちゃ唐突な話しかけ方になって気まずくなったり、逆に言葉が出てこず無意味に沈黙して気まずくなったり、その気まずさを払拭しようと無理して言葉を継ぎ足して余計に気まずくなったりを、性懲りも無く繰り返す。全くもって面倒臭いし、じれったい(笑)。
 思うに、話しかける前から相手の反応を考え過ぎてるんじゃないかなぁ、中川氏。だから予想と違うリアクションだと、どう返していいか分からなくなって固まっちゃう。人はそれぞれ十人十色、反応も千差万別だっちゅーねん。
 それと、もう一つ。嫌われることを怖がり過ぎじゃなかろうか? 誰にも嫌われてない人なんて多分いないんだし、駄目なら相性が悪かったと諦めて、次を探せばいいんだよ。
 と偉そうにアドバイスなど呟きつつも、初対面での気まずい空気ってのはこちらも経験が無い訳ではないので、やはり大いに共感、或いは同情し、それでもやっぱりその不器用振りに笑わずにはいられないという、何ともかんとも痛くておかしいエッセイである。







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