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評者◆秋竜山
紙の白さの力、の巻
No.3069 ・ 2012年07月07日




 和紙の全紙といえばタタミ一枚までないにしても、かなり広い。上等品である。その真っ白い紙を眼の前にひろげて、私は悩む。このまま白い紙を眺めていると心がスッキリしてくる。そして、その白さが宝物の光のようにも思えてくる。この状態でいつまでも置いて時折眺めたい。そこに、この和紙の価値があるようにさえ思える。ところが、もう一人の自分がいる。「いや、このままにしておくには、もったいない。この白い紙に何か描きたい」。その描いたものに価値があり、紙にも白紙と異った価値が生まれるのではなかろうか、と。しかしながら、私ごときものが描いた絵になんの値うちがあろうや。余計なことするな!! 荻野文子『ヘタな人生論より枕草子』(河出文庫、本体六六〇円)を読んでいたら、「わかるなァ!!」と、こっちがナットクさせられる個所があった。
 〈清少納言が日ごろ、中宮や女房たちの前で、こんなことを言っていた。「世の中が腹立たしく、むしゃくしゃして、片時も生きていられそうにない気がして、どこでもいいから消えてしまいたいと思うときに、ふつうの紙の真っ白できれいなのや、上等の筆、白い色紙、陸奥紙などが手にはいると、気分がよくなって、いいわ、このまましばらくは生きていられそう、という気になるのです。(略)〉(本書より)
 真っ白い紙を眺めていれば、清少納言でも死にたいほどの嫌なことがあっても、その真っ白さがすくってくれる。そんな気分なんて忘れられる。と、いうわけだ。これは大いに同感である。紙の白さの力だろう。清少納言がいうように、スッキリとした気分になってくる。と、いうことだ。
 〈「あまり上等ではないようだから、寿命経も書けないでしょうけれど」とは、(この紙を見舞い品とした)中宮のとびきりのジョークである。「上等の紙なら生きられる」という清少納言の口癖を逆手にとって、「こんな紙くらいで生きる気にはならないかしら」とからかった。〉(本書より)
 ――寿命経とは延命を祈る経――清少納言は、真っ白できれいな紙、同様に、
 〈また、高麗縁の畳の筵が青くて細やかに編んであって、縁の紋がくっきりと黒く白く見えているのを引き広げて見ると、なんのなんの、やはりこの世は絶対に捨てることなどできそうにないと、命まで惜しくなります」〉(本書より)
 板張りの部屋に、広げて敷く、ということだ。「これも、わかるなァ!! じっさい新しい畳は、そこへ寝ころんでみると、生きる希望をあたえてくれるもんだよなァ……」。新しい畳の香りが、なぜあのようにいいものなのか、リクツぬきの香りというものだろう。枕草子は確かに、ヘタな人生論よりも、学ぶべきことがある。
 〈もし、一千年の時空を超えて、平安の昔から平成のいまに彼女を連れて来たら、この惨憺たる今日の社会をどんなふうに斬るだろうか。それが、本書を書く動機となり、「~もの」で始まる「ものづくし」のテーマを借りて、私の目を通して見た現代人の心の有様を、「枕草子」ふうに論じてみた。〉(まえがき)
 〈人にばかにされるもの◆あまりにも気がいい人だとみなに知られている人。〉(本書より)
 「枕草子」は笑いの文学であることがわかった。本書を読む限りにおいて。







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