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評者◆竹原あき子
漫画は日本と同じ開きかた
No.3068 ・ 2012年06月30日




 漫画がヨーロッパの言語に翻訳出版されるまでには様々な壁があった。日本語の本は左から右にページを開き、縦書きの文字を右の行から左に向かって読む。上から下に記述する日本語の文字を左から右にむかうアルファベットに翻訳して出版するのは、それほど問題なかった。だが漫画は違った。右から左にページをめくるが、図と文字による物語の進行は右から左、つまりコマ割のレイアウトが右から左だったからだ。だから日本のレイアウトのまま印刷すれば、動きを妨げる。もちろん版をすべて裏返して印刷し、ヨーロッパの言語に対応する方法もあったが、それでは出版経費も時間も漫画という世界にふさわしいものではなかった。日本の週刊誌に連載するのと同じリズムで輸出出版される必要があった。漫画の供給はスピードが肝心だ。
 サロン・デュ・リーブルに展示された漫画で、初期のように左から右に開くのではなく、日本と同じように右から左にページをめくる方式がヨーロッパにそのまま定着したのがわかる。つまり1980年代の漫画出版翻訳界が見つけた解答が、オリジナルの日本語版と同じ版に翻訳言語を貼付け、ページを右から左にめくる方式をヨーロッパに定着させることだった。日本の会席料理がフランス料理の盛りつけ、つまり視覚効果を変革させた以上の効果を、漫画はヨーロッパの出版界に提供した。現在の若者はその変革を感じることはないだろう。
 2002年のJETROの資料によれば、アメリカに輸出した漫画の金額は、鉄鋼の輸出額より多いことがわかり、その数字に驚いた。新たな産業として政府が注目し、漫画の殿堂計画や、国外の漫画家養成のコンクールを開くなどめまぐるしい動きがあったのは記憶に新しい。
 読者だけではない。漫画家をめざすヨーロッパの若者の数も多くなった。漫画の故郷は日本と信じる彼らに、震災をきっかけに日本支援の連帯が生まれた。たまたま震災当日に東京にいたフランス人がネットで世界中の仲間に呼びかけて集まった日本支援イラストは、5000枚を上回った。その中から原画をオークションで売り、250枚を選抜して『Magnitude 9』を出版し、日本にすでに3万ユーロの支援をした。その行動力と連帯のひろがりに驚く。しかも、彼らの表現力は文字以上に深読みを要求する。もしかしたら、予算も人材もないテレビのルポルタージュ番組より素晴らしい映像を提供する力を備え始めたのかもしれない。スケッチの綿密さと早さは、写真と文章を上回ることも多い。
 2012年、日本から40社ちかい出版社の代表が参加し、フランス側と話し合って、パリ・サロン・デュ・リーブルの話題をさらったというのも心強いニュースだった。
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







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