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評者◆花本武(ブックスルーエ、東京都武蔵野市)
生きるとは、死ねない環境をつくること――坂口恭平著『独立国家のつくりかた』(本体七六〇円・講談社現代新書)
No.3067 ・ 2012年06月23日




 なんというか凄いものを読んでしまった。坂口恭平初の新書『独立国家のつくりかた』。日本政府関係筋で排他的な思想を持つ方々は、ゆめゆめ注意深く読んでいただきたい。
 例外はあるが新書は通常書き下ろされるもので、そこに価値を置いている。ところが本作は坂口のツイッターでの投稿をまとめたものだ。書籍化を控えたうえで発表したわけではなく、ひたすら自分の構想をメモしていたようだ。それに後付けで編集者が目を付けたという流れが全く坂口らしい。〇円報酬でやっていることがいつでも駆動する。
 実は正直坂口を読み馴れた自分としては、流石に前著『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』を越える驚きはないと踏んでいた。「都市の幸」という概念を提示して、すっぱだかで東京に放り出されたとしても何も恐れることはないと、実証してしまう驚異の書に比べれば、新書ユーザーのための坂口入門書なんでしょ? とおもっていたのだ。
 なめていた。たしかに入門的な部分はあるものの、史上最高にラジカルだった。「ラジカル」という言葉をここでは、「根源的な疑問を突き詰めた末に達した過激な結論とどのように向き合うか、大いに思考を促される」といった大意だと思っていただきたい。と、念のため調べてみると政治学では「急進主義」とされることがわかる。おもしろい。
 建築家としての出自を持つ坂口だが現行の建築法に基づく家は建てない。造ったのは、未曾有の災害を経たことで意味を深める車輪を持った家。モバイルハウスだ。気軽に造って、気軽に住み、気軽に移動する。実際ピザの宅配だってオッケーだったし、震災後は配送して健在だそうだ。ファッションブランドの「ファイナルホーム」のコンセプトと隣接している。災害や戦争、失業で家を失くしたときの「究極の家」としての服を掲げている。坂口にぴったりだ。
 坂口の発想はほとんど子供のそれだ。冒頭で子供の時からの疑問を提示している。お金がなくちゃいけないの? 誰も突き詰めようとはしない。路上生活者への迫害、自殺者の増加、さらには原発事故に対する無策に対して、憲法25条の生存権なんて全然保障されてないじゃん! と真顔で超正論を吐く。
 そんな坂口が以前から提唱するのが「レイヤー」という考え方だ。「層」という意味に当たる。路上生活者たちは一見、社会の下層にいる。だが「レイヤー」に上も下もない。彼等はモバイルの家を持ち、ある者は情報やネットワークを駆使し、貨幣経済とは違う仕組みで快適に生きる。視点や捉え方を変えるだけで、無数の世界が広がる。そのような考えで坂口はあっけらかんと「新政府」の総理大臣になってしまうのだ。
 坂口新政府が最初にやったことはゼロセンター(熊本にある首相官邸たる坂口の家)に震災避難者を無料で宿泊させること。行政が機能しない部分に小さな政府ができることを考えさせられる。と、まだまだ画期的な新政府について書きたいんだが紙数が足りない。ここだけチェックしてほしい。http://www.zero‐public.com
 プライベートとパブリックのせめぎ合い。態度経済という賢くて尊い仕組み。思考都市の発想法。などなど興味深いアイデアを満載させるのだが、終盤少し様相が変わる。躁鬱体質で鬱期には希死念慮にとらわれると書く。疑問を創造に変えて実行に移しその果てに新政府を立ち上げ、支援者も多い。もはや死ぬわけにはいかない。そして、生きるとは、死ねない環境をつくること、という結論に達する。死なない子供。
 「死なない子供」こと荒川修作と坂口を並べて論ずるには、こちらに力量が足りない。誰か書いてください。







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