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評者◆編集部
残された1店舗から再生の道模索――地元商店主らと「おおふなと夢商街」を結成~大船渡市・みなとや書店~(上)
No.3067 ・ 2012年06月23日




 昨年十二月一日、岩手県大船渡市に中小企業基盤整備機構が整備した仮設の複合店舗「おおふなと夢商店街」がオープンした。そこに地元の「みなとや書店」がブックボーイ茶屋前店を出店。経営する五店舗のうち四店が津波に呑み込まれながらも創業の地で書店の再開を果たした。震災から今日までのみなとや書店をレポートする。
 岩手県大船渡市大船渡町に一九三七(昭和十二)年に創業したみなとや書店。震災前までは、ブックボーイの屋号で、大船渡店(本店=大船渡町)、マスト店(大槌町のショッピングセンターマスト内)、サンリア店(大船渡市盛町のショッピングセンターサンリア内)――の書店三店舗を運営。大槌町のマスト内にCD・DVDショップのAtoZマスト店、大船渡町の旧本店跡地で貸ホール「茶々丸ホール」を経営していた。 しかし、二〇一一年三月十一日に発生した東日本大震災により、サンリア店を除くすべての店舗が全壊・流出した。大地震による津波被害が甚大であった大船渡市において、最も被害が大きかったのがJR大船渡駅周辺の大船渡町。駅前(海側)にあった大船渡商店街は壊滅的な被害を受け、駅舎は跡形もなくなった。死者・行方不明者は四二二人、被災した家屋五五〇七棟の約八割が全壊という状況だった(二〇一二年五月・大船渡市調査)。
 地震と津波による被害から八カ月が経過した昨年十二月一日、JR大船渡駅西側に「おおふなと夢商店街」がオープンした。壊滅的被害を受けた茶屋前商店街の店主らが集まって、仮設店舗三一店を設置して商店街を再開したのだ。その一角に、みなとや書店が三〇坪で店舗を再開した。同書店の佐藤勝也社長は震災当時をこう振り返る。
 「津波が来て、店は流されたが、高台の自宅は無事だった。電気も水道も止まり、電話や携帯もつながらない。トイレすらも使えない。川から水を汲んできたものの、飲めるかどうかも分からない。飲み水がようやく確保できたら、次は食べ物がない。ようやく炊き出しが始まったのが数日後。家には叔母を含めて七人いたが、七人分をとは言えず、少ない食料をいただき、分け合って食べていた。それが数日間続いた。瓦礫が片付けられ、車で移動できるようになり、被災を免れた住田や遠野のコンビニに行った。しかし、店には何も売っていなかった。だけど、雑誌だけが残っていた。確かにこんなときに雑誌を買って読む人はいない。だからもう商売はできないと思った」
 サンリア店が残されてはいたが、当時の佐藤社長には震災後も書店を続けることができないと思っていた。だが、「今考えると、うちにとっては救いの店だった」と振り返る。サンリア店は津波の被害こそ免れたが、ショッピングセンター自体が地震で破壊されていたため補修が必要だった。
 補修が終了し、再オープンするのが四月一日。震災の被害を免れた同店の社員二人がサンリア店に来て散乱した書籍を棚に戻すなど復旧作業を進めていた。「正直、再開するかは悩んだ。でもテナントに穴を開けたら、サンリアに迷惑をかけることになる」と思い直した。そのときは書店の再開を決心するという意識よりも、目の前の出来事に対処する、そういう気持ちでの再スタートだった。
 四月一日にオープンしたショッピングセンターサンリアにはあらゆるモノを求める人が群がった。書店にも人が殺到し、「こんなに本を読む人がいるのか」と思うほど毎日が忙しかったという。当初は物流を担う取次会社の日販の配送網が途絶えていたため品不足の状態だったが、配送が復活してもなお品不足は続いた。それほどの活況だった。
 そこで、外商部や、書籍・雑誌を納品していた「マイヤインター店書籍部」へ配送する雑誌をすべてサンリア店に送った。震災直後に営業を再開できた、近隣のショッピングセンターは「サンリア」と「マイヤインター店」だけ。マイヤインター店にも客が殺到したため、マイヤの担当者から「雑誌に付録を合わせて店に出す暇がないから止めてほしい」と言われ、サンリア店に雑誌を送品した。
 「はじめは、食べ物や灯りなど生活必需品がほしかった。本はなくてもよかった。しかし、電気が通ってテレビをつけると震災の番組ばかり。親としてはこうした光景を子どもには見せたくなかったのだろう。それで児童書が売れ始めた。その後は挨拶の本、手紙の書き方といった実用書や辞書などが売れてきた。さらに、流通がストップして雑誌が入ってこなかった期間のバックナンバーコーナーをつくった。すると、マンガ誌や週刊誌などが軒並み売れた。本は生活必需品ではない。だが、食べ物や水など最低限のものが回復してくると、別な意味で人は次の欲求を満たそうとする。そこに必要なものが本だと分かった」
(つづく)







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