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評者◆伊達政保
情勢認識の後退、文化情況認識のずれ――吉本隆明の訃報に接して
No.3066 ・ 2012年06月16日




 吉本隆明氏の訃報を、マスコミは決まり切ったように、戦後思想の巨人、新左翼運動のカリスマ、そして全共闘運動への影響とか、当時を知らない記者たちが書いている。昭和40年代当時の学生の一人としては、どういった情況の中で吉本を読んでいったのか。
 オイラの大学入学は昭和44年、東大安田講堂攻防戦そして東大入試が中止となった年だ。全国の殆どの大学が学園闘争の真っ最中。地方の高校で闘争の現状を知るためには、「朝日ジャーナル」などの週刊誌や雑誌などに頼るしかなく、ようやく大学闘争関連の多くの本『叛逆のバリケード』(三一書房)などが出版され始める。入試も機動隊包囲の中で行なわれた。
 入学した中央大学の学生運動は、吉本氏の影響が最も大きいと言われていた。オイラ氏の著書を読んだことがなく、それを知ったのは後のことだ。入学当初から中大全中闘(全学中央闘争委員会)は、ロックアウトされていた大学本部突入再占拠。入学式粉砕闘争、学内闘争、4・28沖縄デー闘争など、行動が続いた。その間にビラや党派機関紙などを貪り読み、サークルの先輩から『民主主義の神話』(現代思潮社)を薦められ、初めて吉本の『擬制の終焉』を読む。「社会の利害よりも『私』的利害を優先する自立意識」、なるほど皆が口にする「自立」という意味はそういうことかと思ったものだ。後に、「私」的利害を私的利害に読み替え、吉本を利用して闘争から離脱しようとする輩が出てくることになる。
 5月は大学立法粉砕闘争の一方で、毎週の新宿西口広場フォーク大集会。合間を縫い連日の討論と学習。「叛旗」創刊号、神津陽の「共同体論へ」が全く理解できず、付け焼き刃で『ドイツ・イデオロギー』これまた難しかった。そして吉本の『共同幻想論』、マルクスよりは理解できるように思われた(だけかもしれないが)。要するに、国家とは共同の幻想であり、幻想を破るものは幻想だということである。ジョン・レノンの「イマジン」は本書の影響があるのだと思う。6月アスパック粉砕闘争、反安保闘争、中大再度バリケード・ストライキ突入。そうした情況の中、7月に『吉本隆明全著作集13 政治思想評論集』(勁草書房)が刊行されベストセラーとなった。この本がオイラにとっての吉本隆明を決定付けたと言っていいだろう。
 しかし、闘争の中で吉本氏との認識のずれを感じ始め、大学を出る頃には関心が徐々に遠のき始めていった。『「反核」異論』にいたっては、氏の情勢認識が昭和30年代に後退してしまったかのようだ。その後は興味を失っていった。とりわけ文化情況認識のずれが大きくなっていたからだ。
(評論家)







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