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評者◆殿島三紀
映画の醍醐味はロードムービーにある――エミリオ・エステヴェス監督『星の旅人たち』
No.3065 ・ 2012年06月09日




 今月、映画館へお出かけならこれ。『ムサン日記~白い犬』、『ファミリー・ツリー』、『ミッドナイト・イン・パリ』、『星の旅人たち』、『ジェーン・エア』、『ファウスト』である。
 北朝鮮あり、ハワイあり、パリあり、スペイン巡礼旅行、文学作品ありと、節操のない羅列だが、なんでもありの当コーナー、平にご容赦ください。脱北者を主人公にした韓国の監督パク・ジョンボムの長編映画デビュー作『ムサン日記~白い犬』。実在の脱北者の韓国でのその後を描いたという点で興味をそそる作品だった。がらりと変わって『ファミリー・ツリー』はG・クルーニーが妻に浮気され、その怒りの矛先を向ける間もなく妻に先立たれる夫を好演。監督は『サイドウェイ』で良い味を見せたアレキサンダー・ペイン。良かった。『ミッドナイト・イン・パリ』はウディ・アレン監督42作目の作品。年に一回の制作という快進撃を続ける77歳の名匠、若干のクセは気になるところだが、ないものねだりの人間の性をひねりをきかせて楽しませてくれる。文学少女の定番『ジェーン・エア』も大人になった眼で観てみると、あれれ、こんな話だったんだと中学時代はいかに何も知らずに本を読んでいたかと思い知らされる。監督は異色作『闇の列車、光の旅』の監督・脚本で長編映画デビューを果たしたキャリー・ジョージ・フクナガ。『ファウスト』、これも生意気盛りの高校生なら手にする一冊だ。監督は『太陽』のアレクサンドル・ソクーロフ。原作とはひと味もふた味も違う趣きと圧倒的な映像で楽しませてくれる。
 さて、そんな傑作が出揃った今月ご紹介する一本は『星の旅人たち』。実は、ロードムービーを偏愛するわたし。本作もバリバリのロードムービーである。それも聖ヤコブの遺骸が祀られているスペイン北部のサンティアゴ大聖堂までの800キロを徒歩で目指すという大それたもの、巡礼ロードムービーである。この大巡礼、実は映画化されるのは本作で三本目。ルイス・ブニュエル監督『銀河』(68)や、コリーヌ・セロー監督の『サン・ジャックへの道』(05)が既にある。A地点からB地点への移動。ロードムービーには地理的な旅もあれば、心の旅もあれば、人生の旅もある。でも、徒歩にせよ、自転車にせよ、必ず、なんらかの移動を伴うことが必須条件。巡礼ならば、その全ての条件を満たしている。
 監督はエミリオ・エステヴェス、主人公はマーティン・シーン。父子である。この父子、いずれもハリウッドスター。そんな理由から、ロードムービーであること以外になんの期待もしていなかったが、とんでもない。先入見というものがいかに眼を曇らせるか、思い知らされた。反省、反省。
 巡礼の始まりで命を落とした一人息子の遺品を受け取りにいっただけの父が、息子の遺骨を撒きながら800キロを歩き通すというストーリーだが、広大な自然を背景に、生き方も考え方も異にする父子の心が融和するラストシーンには大きな救いを感じる。四国のお遍路には「同行二人」といって旅人には弘法大師が影のようにはりついて一緒に歩いてくれるという考えがある。本作でも妻も子も亡くし、人生の折り返し点もとうの昔に過ぎた男が亡くなった息子と同行二人で旅という名のもう一つの人生を生きなおす。西も東もどこか似たところがあるものだ。それにしても、様々な事情を抱えた善男善女がひたすら歩き続ける姿には無条件でカタルシスを感じてしまう。
(フリーライター)

※『星の旅人たち』は、6月2日(土)から全国順次ロードショー。
http://www.hoshino‐tabibito.com/







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