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評者◆小嵐九八郎
大歌人、無名歌人の激震の時代――三枝昂之著『昭和短歌の精神史』(本体一三〇〇円、角川ソフィア文庫)
No.3065 ・ 2012年06月09日




 この短い文については、自称歌人だし、歌についても誠実なコーチを受けてきた人の歌論評なので、割引いて読まれても仕方がない。
 吉本隆明氏が亡くなり、部数も読者の志向も限られている(ごめーん)雑誌から、吉本氏の文学論についてインタビューを受けることとなり、五日間、青春時代や物書きになった中年頃に戻り、繰り返し読書をした。つまり、三回目の読書をしたけれど、とどのつまり、原発推進と党派嫌悪に至る原点は、既に『藝術的抵抗と挫折』『転向論』(たぶん、1957年に書き、今は講談社文芸文庫に生きているらしい)にあると解った。要するに近代主義者のレッテルを貼りたくなるほどの科学技術への信仰と、アトム的個人が好きで絆が厭で連帯などどうでもいいという“大衆”好きを装う現代ポピュリズムの典型と思ってしまった。『藝術的抵抗と挫折』は、頻りに“封建制にどっぷりの庶民と近代制に嵌まった党の溝”を埋めなかった日本共産党の芯と転向者と挫折者を批難するけど、そりゃ、渦の中に入ってみればみな必死、そもそも正解なんてあるわきゃないのに客観主義まる出し。ごめんね、吉本氏は随伴者だったわけで第一次ブントの生きている人人、第二次ブントの部分的な分派だったみなさん。いや、俺も、一九六六年頃、吉本氏の『擬制の終焉』を読み、八割のローザ主義者なので、日本共産党と革共同批判で、すんごく空気が入ったことがあります。
 いけねえ、前文が長くなっちまった。それで、書店で『昭和短歌の精神史』(三枝昴之著、角川ソフィア文庫、本体1300円)というのがあり、えっ、歌論が文庫になるなんて凄い、しかも、当方の短歌の兄貴分のそれと買い、これまた、読了に三日かかった。でも、三日間、興奮した。そう! ノンフィクション作家より時代をきっちり資料で集め、日中戦争から、太平洋戦争、サイパン島や沖縄の陥落、敗戦、GHQの検閲、第二芸術論と冷静に書きつくしている。なにより、大歌人、無名歌人の激震の時代への真向かいを静かに、悲しみ、抒情の強さ弱さを含め、ここにある。VS吉本の文学論としても十二分に屹立していた。







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