書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆竹原あき子
反原発を心から訴えた大江健三郎
No.3065 ・ 2012年06月09日




 フランス人の90%は2011年に少なくとも一冊の本を読んだ。2011年に最も売れたのはステファン・ヘッセルの『憤慨せよ』だった。すでに170万部を突破した。4月現在でまだ店頭に平積みされている、ということはまだ売れ続けている証拠だ。だが出版界にとって心配なことが起こった。それは4月から書籍への消費税が5・5%から7%にあがったこと。直接の被害を受けるのは個人経営の書店。売り上げの3%しか利益がない。社会党オランド大統領候補(当時)は、テレビの取材が集中する日本コーナーへの立ち寄りも忘れず、出版への増税を批判して7%からもう一度5・5%に戻す、と選挙戦でアピールした。
 日本では書店で雑誌を販売するが、フランスではキオスクとタバコを販売している店だけに雑誌がある。だから雑誌販売の利益に頼れないところが、日本とちがう。それでも個人経営の書店は、子ども、旅、哲学などと、それぞれの店主がこだわる書籍を充実させ、馴染みの顧客をつなぎ止める。
 入場券をネットで購入した参加者にサロン・デュ・リーブル主催者から届いた「御礼状」によれば、2012年の大成功は紙媒体の健在を示す、と書きながら、押し寄せるデジタル書籍への対抗姿勢と不安も同時に隠さなかった。
 2011年はブラジル、2012年はロシアが招待国だった。両国が急激に経済的に成長し、フランス語での出版に積極的になってきた国だからだろう。ところが2012年は突然、福島から一年を悼んで日本に特別な光があてられ、その結果ロシアの影が薄くなってしまった。
 日本からの招待作家は文学、絵本、漫画など20名という多彩ぶり。とはいえカタストロフの文学を語る大江健三郎がスターだった。いや世界中から招かれた文学者の中で最も多くの聴衆を集めたのが、大江健三郎とフランス側の文学者、ジャーナリスト、映画監督などとの17日、18日、19日と3回にわたる対談だった。17日の対談の評判が良く、翌日18日には一時間前から聴衆が会場で待つ姿があったほどだった。円形の会場に、立ち見、床に座る者などを含めて500人以上。
 パリに出発する前のインタビューからすでに大江健三郎の発言は、多くの日本のメディアでも報道されてきた。広島の悲劇を学ばなかったために起こしてしまった福島の悲劇を「日本人ってだましやすい人間だったのか」と嘆き、反原爆と反原発を心から訴えたのは、日本人の聴衆にとっては珍しい発言ではなかったが、フランス文学作品を引用し、なお電力会社、日本政府、官僚、そしてメディアが「沈黙の申し合わせ」をして危険を隠蔽した、という批判は、フランス人聴衆を驚かせた。
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約