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評者◆竹原あき子
本のフェアは多様な言語のフェア
No.3064 ・ 2012年06月02日




 ブックフェアは本のための祭りだが、同時に言語の祭りでもある。どれだけの言語の書籍がフランス語に翻訳され、その反対にフランス語で書かれた書籍がどれだけ外国語に翻訳されたかを知らせる絶好の場でもある。フェアは言語の輸出入バロメーターだ。だから参加する国は、それぞれのブースに国旗を掲げ、翻訳本と自国の言語による出版物を展示・披露する。フランスからのアルジェリア独立50周年を記念した広い面積の緑のコーナーや、トルコ、ロシアなどのブースも華やかだったが、元植民地アフリカ数カ国の参加はいつもながらにぎやかだった。書籍展示台の前で突然始まった読み聞かせコーナーは、フランス語で語っているのに、独特なジェスチャーを交えた声の抑揚が、アフリカの田舎で聞いているような雰囲気を演出していた。
 日本語からフランス語に翻訳された最近の小説では、村上春樹がダントツの売り上げを示しているが、文学以外で村上作品を遥かに上回るのが漫画。もちろんフランス語に翻訳されている。
 漫画ファンが増えるにつれて、外国語からフランス語に翻訳される言語で、日本語が第2位に急上昇した。英語が第1位なのは、戦後の経済と科学技術用語が英語になったから当然だろう。翻訳用語第2位になるほど、漫画がフランスの文化に影響を与えるとは、20年前にはだれも予想しなかった。フランスに漫画が登場しはじめたころのフランスの子どもたちは、日本語のまま漫画を読んだ。漫画で日本語を覚えた世代がいま40代になる。彼らはトリヤマ(鳥山明)に憧れていた。
 大人の市民が押し寄せるのはサイン会場。綿密なプログラムに沿って会場のあらゆるコーナーで机の前に座った作家は、読者を待つ。サイン会は同時に進行するから、サインをねだる市民の忙しさは格別。著作を前に出版社の社員が見守る中でのサイン会風景はおなじみだが、『憤慨せよ』の著者ステファン・ヘッセルを筆頭に、行列の長さが人気のバローメーターだ。浦沢直樹、西原理恵子、福本伸行のサイン会の行列も長かったが、大江健三郎は一人一冊とことわりながら、結局一人の読者に笑顔で三冊もサインするサービスぶり。漫画家の人気も予想を上回ったが、この会場のスターは、まちがいなくノーベル賞作家、大江健三郎だった。
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







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