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評者◆秋竜山
時価86億円の〈叫び〉、の巻
No.3064 ・ 2012年06月02日




 絵というものは、キャンバスにしがみついていなくては、うまれない、ものである。キャンバスに背をむけていては、名画も駄作も、うまれない。そして、人間の手によってである。ロボットでもなく、宇宙人でもなく、同じ人間によって、いや人間は同じでも、神に選ばれた、芸術家の手によって、画筆の先っぽから、よごされた白地のキャンバスにぬりたくった色によってである。誰にでも描ける。そして、誰にでも描けない、と、いうのが名画ということになる。その名画にも、名画中の名画というものがある。名画の第一条件として、一人でも多くの眼にふれるということ、「アッ!! しってるこの絵。写真でみたことある!!」って、子供でもしってるのが名画中の名画だろう。今、話題の名画中の名画は、やっぱり、アレだろう。〈叫びのムンク〉ではなく、〈ムンクの叫び〉だろう。沢辺有司『ワケありな名画――名画31点の裏鑑賞会』(彩図社、本体一二〇〇円)でも、ムンクの〈叫び〉を、とりあげている。やっぱり、ワケありということか。名画中の名画のこの作品だ、ワケなしであるわけがない。本書では、盗まれて一人前の名画になるという、絵画盗難事件での〈叫び〉である。
 〈――1994年2月12日、早朝のノルウェー・オスロ国立美術館。二人の男が乗った車が停まった。その日はノルウェーにとって特別な日で、冬季オリンピック・リレハンメル大会の開催初日だった。男たちはお祭り騒ぎに水を差そうとしていた。一人の男があらかじめ隠してあったハシゴを立てて支え、もう一人がハシゴを登りはじめた。〉(本書より)
 まるで、喜劇映画でもみているような場面が想像できるのは、著者の文章力のせいだろう。
 〈美術館側は、まさか〈叫び〉が盗難のターゲットとなるとは思っていなかったのだろう。これほど世界的な名画だと、だれが見ても盗品とわかるから、ふつうは買い手がつかない。だから盗難されるわけがないとたかをくくっていたのだ。〉(本書より)
 このムンクの〈叫び〉も、世界中で、叫び声をあげたのは、時価86億円ということだ。どういうことかというと、この作品を目にするということは、86億という札束をながめているということだ。目の前に86億あると思ってよかろう。盗難できるものならしてみたいと、誰でも思うはずだ(そーでもないか)。
 〈盗難美術品の法的な扱いは各国によってまちまちで、アメリカのように、自己の所有でないものは売却できない。つまり盗品を間違って買ってしまっても無条件で返還しなければいけない国がある。一方で、日本のように、盗品も2年以上経過したものは、その売買を正式に認める国もある。だから〈叫び〉は、日本のような国に運び入れて売買される可能性はある。〉(本書より)
 日本は盗難に甘い。盗難天国ってことか(そーでもないか)。ところで、あの絵の中で叫んでいる人物であるが、一度みたら忘れられない叫び顔である。どのような声をあげているのだろうか。作品にはその叫び声が書かれていない。だから名画なのだ。もし、叫び声が書かれてあったら漫画ということになってしまう。とにかく、どんな名画中の名画でもひとことでも発した声が書かれてあったらりっぱな漫画となってしまうだろう。







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