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評者◆秋竜山
かがやき続ける藤沢周平、の巻
No.3063 ・ 2012年05月26日




  藤沢周平『周平独言』(文春文庫、本体六四八円)を読む。故人となって、藤沢周平はかがやき続けている。新作は発表されなくなってしまったが、今までの作品が、まるで新作の如くだ。こーなったら、しめたものである。「ヨシ!!」なんて、あの世から、こっちを眺めて、気合いのようなものを発していそうだ。時代小説ばかり書いていたからだろうが、時代を感じさせない作品である藤沢時代小説である。で、周平独言で面白い箇所を見つけた。著者がインタビューを受けた。「なぜ、小説を書くようになったのか?」ということだ。この質問は小説家にはありきたりであり、本質的なむずかしい質問でもある。大工に、「なぜ、家をつくるようになったのか?」と、一緒だろう。大工は答えるだろう。「なんだと、大工だから家をつくるのはあたりまえだろ」。小説家にも同じことがいえるだろう。「なんだと、小説家だから小説を書くのはあたりまえだろう」。もし私に、「なぜ、漫画を描くようになったのか?」。漫画が好きだったから、では答えにならないだろう。私にも、それがわからないんです!! と、いうのも答えにはならないだろう。
 〈小説を書き出す動機というものは、たとえば小説が好きだからとか、上役とか時間とかに縛られない自由な仕事だからとか、もとでいらずに金が入る職業だからとか、いろいろあるだろう。実際には締切りという、じつにきびしい時間の制約があるし、また高い本を買ったり旅行をしたりという、もとでもかかる。もとでのかからない小説は、さほどよくないのである。だが、一応これらは小説を書く動機になるだろう。〉(本書より)
 そして、藤沢さんはいうのだ。
 〈しかし、本当の動機は、小説を書くという作業を継続させる意志にひそんでいるように思われる。この意志の誕生にこそ真の動機がある。むろん私にもそれがある。〉(本書より)
 他にやることがなんにもないから、私は漫画を描いているんだ!! なんて言ったこともあった。他にやることがなんにもないというより、なにをやってもたのしくなかった。漫画を描いている時が一番たのしくもあり、いやにならなかった。そんなことが小説にあてはまるだろうか。
 〈だが私は言わなかった。私はそのことを、人には言ったことがあるが、活字にはしたことがない。なぜ時代小説だけを書くのか、とよく質問をうける。そのことを言えば私が小説を書くようになった動機も、また時代小説を書く理由も書斎らしい書斎をもたない理由も、一目瞭然になる。パズルのキーワードのようなもので、私という人間が、非常にわかりやすくなるはずだが〉(本書より)
 この文章は昭和五三年一二月に書いたエッセイであるから、かなり昔のことである。その後、藤沢さんはちゃんと答えているのかどうかは知らない。知らないとなると知ってみたいのが人情というものである。
 〈たとえば五十枚の小説を書くとする。私は初日の予定に五枚と書く。二日目は十五枚と書き入れ、全体として三日半か四日ぐらいで書き上がるような配分にする。〉(本書より)
 ウム!! この辺に〈小説を書き出す動機〉というものがひそんでいるかもしれないぞ。







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