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評者◆たかとう匡子
ひとりで書いて読んで考える醍醐味――同人雑誌のいまを考える「同人雑誌と文学」(根保孝栄、『コブタン』)、大人も読める童話「罠にかかった狐」(竹内英海、『てくる』)
No.3063 ・ 2012年05月26日




 私自身、こんな時評を書いていることもあって、『コブタン』第35号(コブタン文学会)の根保孝栄「同人雑誌と文学」には興味を駆られた。ここ二十年、同人雑誌の停滞が取り沙汰され、書き手の高齢化、若者の同人雑誌離れが言われてきたが実情はそうであろうかと問題提起をし、実際には映像性を取り入れたインターネット同人の普遍化や漫画雑誌の興隆など、従来の活字文化オンリーから多様な同人雑誌形態になっていて、数量的にはむしろ増加しているとして、同人雑誌の同人はひたむきに書き続ける純粋さ、求道の精神をもって書くことこそ文学の本道だとあり、ひとつひとつ共感し、納得しながら読んだ。たとえば漱石の時代、作品は今日ほど商品化されていたかと問えばよい。読む人のレベルによって独自に作られていった面もある。『白樺』も『新思潮』も同人雑誌だった。同人雑誌は商業資本でないところで成り立っているのだから、そこにしっかり立てばいいと思う。ついでながら、私は書道をするせいで、パソコンも使うけれども手書きへの憧れがある。パソコンが出てきてもかまわない。手書きの文字文化から離れられない。読むという行為は黙読が基本だ。ひとりで書いて、ひとりで読んで考えるという行為の醍醐味は商品化にとらわれない同人雑誌にあるのだから、こういったことはあまり気をとられずともいいのではないか。
 『ぽとり』第25号(きのかわ文芸社)の武西良和が「オピニオントーク①」で、神戸で詩のシンポジウムがあり、参加した折、「私は今、形式(フォルム)に関心を寄せているが、修辞が気になるということは、形式も気になることだと思うが」と質問したら「それは別問題です」と言われたという。そして「形式も修辞もともに根本に戻れば、どこに行きつくのか。そんな問題を論議したいのである」と書いている。このシンポジウムは私たちが主体的に企画したものであった。「別問題です」と誰が言ったかわからないが、おっしゃるとおり、私は別問題ではないと思う。フォルムも修辞も相互影響で成り立っている。文脈のなかで問題にされるべきだと思う。文脈とか、文節とかいろんな中で、メタフォアの効果もあらわれる。詩のことばは修辞を問題にしながら、詩のことばでしか越えられない。口語自由詩が何でもありとしてきたところにかえって難しさがあると思う。
 『てくる』第11号(てくる会)の竹内英海「罠にかかった狐」は小説というより、大人も読める童話。狐をつかまえるのを生業とする猟師の父親がいて、母狐を捕まえた折、叢でふるえていた子狐を五歳の娘が父親に隠れて餌をやり育てる。やがて子狐は人語がわかるようになり、狐仲間に危険を知らせるので、父親は猟が出来なくなる。娘が病気になり、その狐が捕まえられて娘の食糧になる筋書きだが、どこかに種本があるのかと思いたくなるほど巧みで感動した。出来すぎ、と言いたいくらい上手い。
 『せる』第89号(グループせる)の西村郁子「歩く男」は歩行感覚のドラマ。歩行感覚というのは歩行につれて事件を重ねて行く手法だが、ここでもエピソードを重ね、ひとつの事件とぶつかるたびに読み手の私が盛り上がっていく。テクニックを上手く駆使し、技法的にも高い小説で、ぜひ読んでもらいたい。作者は女性だが、主人公は男性。女性が男性になって、男言葉を使って書くのは難しいと思うが、異性の心情などもなかなか上手く、高いレベルを保っている。
 『ふくやま文学』第24号(福山文学)の坂本遊「赤い馬」は素朴な詩だが、私はその素朴さに魅かれた。ただ、冒頭「新しい馬を買うことにした//古い馬はすでに 満身創痍」とあり、馬は車であることに気づくが、せっかく「馬」としたのに、モノとしか扱っていないのは気になる。しかし、そこはかとなく廃車になる車に対する愛惜があり、そこが私に伝わってきた。
 『アミーゴ』第67号の平井辰夫「萍の唄」は詩のかたちからいえば抒情詩。最終連には現実に対するアプローチがあって、きびしい現実批評がこの詩の救いになっている。そこがいい。
 ところで、一九七九年創刊の『鮫』(鮫の会)が三十年経って第129号で終刊になった。「回顧・その軌跡」が載っている。誌名は金子光晴の同名の詩集から採ったということだが、それを象徴するかのようにジャーナリズムにおもねることなくアウトローをとおして、気骨のある詩誌だった。長く記憶にとどめておきたい。同時に現役で活躍している詩人が多く、新しい仕事に期待したい。
 『草束』第30号(岸和田市図書館友の会 詩の教室)は一年に一冊出して、今年で三十周年だから30号が出た。インタビューあり、ここには内田朝雄や長谷川龍生、永瀬清子や私も登場させてもらったが、地方にあって結構楽しそうにやっている。単純に三十年というが、その長い時代についても思いが及ぶ。
(詩人)







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