書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
カフカ『変身』は長男文学だ!!、の巻
No.3062 ・ 2012年05月19日




 川島隆・語り手『NHKテレビテキスト 100分de名著 カフカ『変身』』(NHK出版、本体五二四円)が、書店の棚に並べられていた。カフカファンというべきか変身ファンというべきか、この文字が目に飛び込んできたら黙っていられないだろう。カフカというより変身ファンだろう。ただ変身ファンというと、ヘンシーンのあの仮面ライダーのようなものと受けとられる恐れがあるから、必ずカフカという作者の名前をつけ加えるべきだ。それを忘れるとトンチンカンになってしまう。本書はNHK・Eレテで四回にわけて放送される、そのテキストである。初心者、「なんだろ、コレ」というものにとって、まずわかりよい。わかりよくなかったら意味ない。文章がわかりよい。これによって小説「変身」を読んでみようという気にさせられるだろう。
 〈私がカフカの「変身」をはじめて読んだのは高校時代でした。学校の図書館に古い文庫本が入っているのを見つけて、何気なく手にとって読み始めました。一読して「これは私のことを書いているんじゃないか」と思ったのを、今でもはっきり覚えています。〉(本書より)
 まず、この「変身」の成功は、〈文庫本にしてわずか百ページあまりの小説です。〉というように、短くもなく長くもなく、ちょーどよい分量であったということだろう。この文章の量はマネすべき点が大いにあるだろうと思う。読み手のことも考えて、書き手も、考えてほしいということだ。もし「変身」が大長編であったら、途中でなげだしてしまうか、初めっから手にとらなかっただろう、というのはシロート考えというものか。カフカには「城」というむづかしい長い作品もあったりするが、やっぱり、この「変身」がもっともカフカであろう。そして、「変身」との読者の出会いである。面白いのは本書で著者がいうように、〈「これは私のことを書いているんじゃないか」〉ということだ。もしかすると誰もがそうであったかもしれない。実は私もそーだった。私はその時、「これは、長男文学である!!」なんて叫んだものだった。自分が長男であったから、そう感じたに過ぎないだろう。もし弟だったら「これこそ、弟文学だ」なんて、ことになったかもしれない。〈ある朝目を覚ますと自分が巨大な虫に変わっていた〉と、いう最初の文章があまりにも有名だ。
 〈多くの読者は、「主人公がどんな虫に変身したのか?」にまず興味を抱き、頭の中で想像を膨らませていくはずです。「甲殻のように固い」背中と書かれていることから、カブトムシやコガネムシのような甲虫の一種であるのは、なんとなくイメージできますが、具体的に何の虫に変身したのかは、作品の中では一切説明されません。カフカ自身、作品のイメージが固定化されるのを嫌ったようです。〉(本書より)
 さあ、固った。どんな虫か読者にイメージをおまかせ!!と、いうわけだ。丸なげである。
 〈かっての日本語訳では、単なる「虫」ではなく「毒虫」という言葉当てられていました。〉(本書より)
 サテ、どのような形をした毒虫か。マンガ家の私としては、やっぱりマンガのような毒虫を描いてしまうだろう。カフカがみたら、その場でやぶり捨てるだろう。そんなカフカをみてみたい。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約