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評者◆阿木津英
二冊の女性歌人評伝――原阿佐緒と川上小夜子の評伝から
No.3062 ・ 2012年05月19日




 昨今の文学一般、創作力の衰弱は、誰もが感じていることだろう。歌も例外ではないが、こういう時代には資料や短歌史・評伝の類が充実するようだ。ことに、女性短歌関連で収穫があらわれてきている。
 昨年12月には岩波文庫から今野寿美編『山川登美子歌集』、今年1月には青木生子・倉沢寿子編『茅野雅子全歌集』(おうふう)が出た。これで歌集『恋衣』の著者晶子・登美子・雅子のうち、もっとも知られていなかった茅野雅子の全容があらわれたことになる。
 評伝では、今年2月に古谷鏡子著『命ひとつが自由にて――歌人・川上小夜子の生涯』(影書房)、4月に秋山佐和子著『原阿佐緒――うつし世に女と生れて』(ミネルヴァ書房)が出た。
 原阿佐緒は、物理学者石原純とのスキャンダラスな恋の顛末、その後の酒場づとめや映画女優など、恋多き美人の名の高い歌人で、しばしば特集もされてきた。
 川上小夜子は、原より八歳年下になるが、戦前、北見志保子らと女性だけの会員雑誌『草の実』を発行、戦後には女人短歌会結成に尽力した。著者は、その次女にあたる。
 のちのちまで派手な扱いを受ける原阿佐緒と、ほとんど名前さえ忘れられそうな川上小夜子、この対照的な二人の評伝を読んで思うことは多い。
 戦前、女性は大学教育は受けられなかった。姦通罪もあった。そういう男性社会にあって、文学するほどの女は、誰も平凡には生きられなかった。川上小夜子もまた、十歳年下の青年と恋愛、離婚、再婚という試練をくぐる。綿密な調査を積み重ねつつ、古谷鏡子はこの生涯を抑制のきいた筆つきで叙述する。
 秋山佐和子は、スキャンダルに揉まれ続けた原阿佐緒の生涯を、新資料も探索しながら、女としての共感を持って、いたわるような筆つきで述べている。ただ、どうしてもスキャンダルを辿り返すようなことになるのは評伝という性質上いたしかたないものだろうか。
 女性の歌の評価が、恋愛沙汰や美人といった属性から解放され、歌そのものが真正面に置かれて検証される、そういうさっぱりとした女性短歌史・評伝が当たり前になる時代が待たれる。
(歌人)







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