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評者◆トミヤマユキコ
カワイイを紹介するプロフェッショナル、甲斐みのりの独走態勢
東京でお酒を飲むならば
甲斐みのり
リベラル社(TEL052‐261‐9101)・発行/星雲社・発売
No.3061 ・ 2012年05月05日
▲【かい・みのり】1976年、静岡県生まれ。大阪芸術大学文学部卒。雑貨ブランド「Loule」(ロル)の立ち上げから自身のキャリアを本格的にスタートさせたが、現在は「かわいいモノ/コト」探索を得意とするライターとして知られ、とりわけ、大人の女性向けのセレクションには定評がある。最新刊『静岡百景』(ミルブックス)は4月20日発売。
日本はいまや「カワイイ大国」であります。そして、カワイイと言っても、萌えキャラから動物園のパンダに至るまで、いまや無限とも思えるほど数多くのカワイイが存在し、その中から自分にぴったりのカワイイを見つけ出すことが至上命題となるにしたがって、頼りになる「ガイド役」が必要となってきました。 カワイイの守備範囲が広すぎて「なんかもう分かんなくなっちゃった」ひとが増えたのは仕方のないことであり、ガイド役に対する需要の高まりは、もはや必然。たとえば、ママタレントのブログなどを見ていると、彼女たちが「妊産婦にとってのカワイイとは何であるか」を説くガイド役を引き受けているのは明白です。 そもそも、育児の現場にカワイイを導入しなければならないのか、という点については議論の余地がありそうですが、とにかくママタレにガイドとしての自覚があることは間違いない。でなければ、なぜいちいちやたらカワイイベビー用品のブランド名や入手先を明記しているのか(ブランド名が分からないと謝罪のコメントまで書いてあったりする)説明がつきません。 このように、エントロピーが増大するかのごとく、カワイイの浸透と拡散が続く中、「他人とは違う」「ひとひねりある」カワイイを求める女子たちに圧倒的な支持を受けているのが、今回ご紹介する「甲斐みのり」です。 彼女の手にかかると、古くさい地方のお土産が「あらよく見たらカワイイ」と思えたり、ジジババが好んで行くような辺鄙な場所も「まぁクラシカルでカワイイ」となる。プロのガイドが解説すると「価値転倒」が起こるワケですね。 彼女の特色は、完成されたカワイイにはあまり興味がなく、自らの審美眼と筆力を総動員して、ついさっきまで大多数がダサいと思っていたものを積極的に取り上げるということ。とくに、大人の女性が堂々と愛でられる(つまり幼稚でない)カワイイものを見つけ出しては世に広めるという作業をここ10年ほど熱心に続けています。全国各地に出向き、調査を重ねている筈で、当然のことながら相当身銭を切り、時にはハズレも引き、裏では大変な思いをしていることでしょう。 でも、いかんせん扱う対象がカワイイし、価値転倒の技術もズバ抜けているもんだから、「カワイイものに囲まれて、カワイイものについて書いて、カワイイだらけの暮らし。憧れるわ! 憧れすぎて嫉妬するわ!」と思い、本や雑誌で名前を見かける度に、憧れと嫉妬がない交ぜに。もうこうなったらアレだ、酒だ、酒もってこい。カワイイものに関わりながら稼いで食っていけるなんて、夢のようだなオイ。 ……というような具合に、きわめて身勝手な嫉妬心をくすぶらせていたわたしにさらなる追い打ちをかけたのが『東京でお酒を飲むならば』(リベラル社)発刊の報せでした。大衆酒場を中心としたお店紹介とお酒にまつわるエッセイの両方が楽しめる一冊。嗚呼、大衆酒場だけはカワイイとは無縁だと信じていたのになんてこったい。 浅草「神谷バー」や新宿「イーグル」など、誰もが「レトロでかわいい」と納得できる店はもちろん、祐天寺「ばん」や銀座「三州屋」といった渋い店も巧みに紛れ込ませてあるところにプロの本気を見た気がしました。女性ひとりでも気軽に入れるお店の情報が充実しており、かつ、得意の価値転倒で苦み走ったオッサンたちの集う酒場でさえもカワイイものにしてしまう甲斐マジックも健在! 酒場と言えば吉田類(あるいは太田和彦)だと思っていましたが、新たに甲斐みのりも追加しておかねばなりませんねコレは。 ちなみに、本書で紹介された店の多くに行ったことがありながら、カワイイという切り口でプレゼンすることなど微塵も思いつかず、ただただ飲んだくれていた女、それはわたしです(バカ)。 大衆酒場をもカワイイの範疇に引っ張りこむ彼女のことですから、今後も次々と新たなカワイイを私たちに届けてくれることは間違いありません。競馬場がカワイイとか、爪楊枝がカワイイとか、予想もしなかったところにカワイイを発見する可能性に向けて甲斐みのりの今後が開かれていると思うと、なんだかワクワクしますね。他の追随を許さない、彼女のカワイイ探しのキャリアをこれからもずっと追いかけます(嫉妬もするけど)! (@tomicatomica)ライター |
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