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評者◆沢田史郎(丸善津田沼店、千葉県習志野市)
独立愚連隊が一発かましちゃう物語――池井戸潤著『ルーズヴェルト・ゲーム』(本体1600円、講談社)
No.3061 ・ 2012年05月05日




 例えば小説だったら、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』(新潮文庫)。コミックだったら何を措いても井上雄彦さんの『SLAM DUNK』(集英社)。映画ならジョン・キャンディの『クール・ランニング』とか、モッくん&竹中直人の『シコふんじゃった。』。
 勿論、スポーツものだけとは限らない。有川浩さんの『シアター』(メディアワークス文庫)とか、五十嵐貴久さんの『2005年のロケットボーイズ』(双葉文庫)とか、越谷オサムさんの『階段途中のビッグ・ノイズ』(幻冬舎文庫)とか、塩田武士さんの『女神のタクト』(講談社)とか、辻内智貴さんの『青空のルーレット』(光文社文庫)とか、とかとかとか。
 要するに、世間からは見下されている寄せ集めの独立愚連隊が、汗と涙とチームワークで一発かましちゃう物語。冷ややかな視線と誹謗中傷に傷つきながらもただ黙々と研鑽を重ね、最後の最後で、馬鹿にしていた連中をギャフンと言わせる。そんなストーリーがお好みなら、『ルーズヴェルト・ゲーム』を読まない手は無い。
 舞台は、エレクトロニクス関連の中堅企業・青島製作所。そこの野球部は数十年の歴史を持ち、都市対抗野球の常連でもあった名門チーム。というのは昔の話で、残念ながら近年は、負けるために大会に出るのか? と疑われるほどの衰退ぶり。そんな彼らに二〇〇九年の早春、創部以来最大のピンチが訪れる。リーマン・ショック以降急激に傾いた社業を建て直す為、遂に断行された人員削減。派遣社員はもとより、正社員でさえ解雇される人間が出る中で、野球部に充てる予算など無駄ではないかという声が、当然ながら日増しに大きくなってゆく。更に追い討ちをかけるかの如く、とある部員のゴシップが新聞に出るに及んで、遂に取締役会でも野球部廃部論が浮上する……。
 とまぁ、我らが青島野球部にとっては、孤立無援四面楚歌なドラマの幕開け。以後描かれるのは、臥薪嘗胆南船北馬内憂外患粉骨砕身etc。社長・細川の視点による青島製作所の生存闘争と、野球部の面々を主役に据えた七転び八起きの物語。言ってみれば、弘兼憲史さんの『社長島耕作』(講談社)と、チャーリー・シーン&トム・ベレンジャーの『メジャー・リーグ』を、足して二で割らなかったら多分こうなる。即ち、このテの話が好きな人には堪らない涙腺刺激ポイントが至る所に仕込んであって、例を挙げだすとキリが無いから一か所だけ。部の存続すら危ぶまれる逆風の中で、ある人物が呟く台詞。曰く、
 【でも、一旦、グラウンドに来てしまったら、野球人がやるべきことはひとつしかありません。野球です。ボールを投げて、打って、そして走る。応援団の声援をきいたら、そのときどんな立場に置かれようとも全力を尽くす。(中略)それが野球人です】
 思うにこういった作品には、奇を衒った設定も意表を衝く展開も必要無いのではあるまいか。登場人物たちのまっすぐな気持ちに共感し、彼らの無念を共有し、そして遂には努力が実を結ぶその瞬間に立ち会って、喜びを分かち合えればそれでいい。だって、努力は裏切らない! と信じていたいではないか。そういった意味で本作は、実に真っ当な〝一寸の虫にも五分の魂〟の物語。とにかく何しろ、痛快さ加減がハンパじゃない。清々しい気持ちで涙したければ、損はさせないから是非是非是非!







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