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評者◆秋竜山
「知らないまに」は恐ろしい、の巻
No.3060 ・ 2012年04月28日




 昔、喜劇王エノケンだったと思うが、変てこな歌をうたっていた。子供の頃であるから記憶ははるか遠のき、変てこな歌だったとしかおぼえていない。知らないまに死んじゃって、というのだけは記憶にあり、他の歌詞は、知らないまに、なんとかかんとかと、知らないまにが次々に続いていくのであった。考えてみれば、かなり世の中の本質、あるいは人間の生きていく上での時間の流れのすべてが、〈知らないま〉であると思うから、この歌はすごかったと今思うのである。知らないまにどんどん時間が流されていく。知っていて、ではなく、知らないまであるから、恐ろしい気がしてくる。上杉隆『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』(PHP新書、本体七二〇円)では、〈忘れてはいけない震災報道「9のウソ」〉というのがある。知らないまに、忘れてしまうであろうという震災報道の「9のウソ」というわけだ。〈1「メルトダウンはしていません」〉まず「メルトダウン」なんて、はじめて耳にして、なんのことかわからなかった。テレビなどで次々と報道されていく中で、はじめはメルトダウンなどしていない、ということであったが、どうやら「ウソ」であることがわかってきた。恐ろしいウソである。「あれはウソでした」ではすまされないだろう。〈2「放射性物質は拡散していません」〉これも、まったくのウソであった。これも「あれはウソでした」とあやまられても、どーしようもない。「二度とウソはつきません」といわれても、勝手にしろ!! といいたくなるようなウソである。〈3「半径二〇キロメートル圏外の地域は安全です〉なんとも無責任なウソだ。「あれはウソでした」とあやまられても、あまりに情けなくて、勝手にしろ!! という言葉もでなくなってしまう。「また、ウソか」なんて、ウソが馴れっこになってきたのが空おそろしくなってくる。〈4「年間20ミリシーベルトまで大丈夫です」〉これもウソだった。〈5「低濃度の汚染水を海洋に放出しました」。6「海産物は食べても安全です」〉大ウソ。〈7農産物は食べても安全です」〉これとて大ウソ。〈8工程表のとおりに収束します」〉もウソだった。〈9「事故原因を徹底的に検証します」〉もウソだ。ウソをついているつもりはなかった!! でも、結果としてウソであった。ウソのかたまりであった。
 〈今後、状況がどう推移するかは簡単に予想できる。一年後にも、数年後にも、既存メディアは「震災報道の検証」を行うだろう。そのとき「自分がはじめてメルトダウンを指摘したと主張するジャーナリストがいたが、じつはわれわれも二〇一一年春の段階できちんとメルトダウンを指摘していた」と臆面もなく主張する。仮に十年もたてば、二〇一一年の三月も五月も、厳密に区別されることなく同じ時期として扱われるにちがいない。こうして彼らの失敗は人々の脳裏から消えていくのである。〉(本書より)
 ウソは恐ろしい。それと同様に、知らないまに、ほど恐ろしいものはない。







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