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評者◆田口幹人田口幹人(さわや書店フェザン店、岩手県盛岡市)
この一冊に救われたと思った――鏑木蓮著『しらない町』(本体1700円、早川書房)
No.3060 ・ 2012年04月28日




 忘れられない一年となった2011年、もっとも多くの方が感じたものは、「絆」だったのではないだろうか。縁が強く残る私が住む東北でさえ、地域のつながりが希薄になりつつあると感じていた矢先に起きた震災が、今一度「絆」や「繋がり」というものの大切さを意識させてくれた。
 本書『しらない町』は、映画監督を夢見て田舎を飛び出したが挫折し、夢を叶えるためと自分に言い訳をしながら大阪のアパート管理会社でアルバイトをしている主人公門川誠一が、アパートの一室で亡くなった独居老人の遺品に8ミリフィルムとノートを発見する場面から物語が始まる。8ミリフィルムに映っていたのは、行商のために重いリヤカーを引き集落を渡り歩く一人の笑顔の女性だった。遺されたノートには、意味不明な詩が記されていた。なぜ老人は、8ミリフィルムとノートを大切に保管していたのだろうか。そして8ミリフィルムとノートに導かれるように老人の人生を辿りドキュメントを撮ることを決め、8ミリフィルムが撮られた場所を訪ね歩く。たどり着いたのは、戦争という時代を共に生きた戦友たちの想いや、在りし日の故郷を伝える想いだった。そこに、たしかに老人は生きていた。老人の足跡の向こうには、人と人との絆が存在していた。
 孤独死や戦争というテーマから、連想できない温かな読後感に、希望を見出すことができる物語でした。孤独死、限界集落などが社会問題となっている「無縁社会」と呼ばれる今こそ伝えたい、絆と想いの物語です。
 自分の死が多くの人を救う。たとえそれが犬死にだったとしても。いろいろな人のご縁で生かされている実感。人は、一人では生きていけない。人は、生まれてからずっと、必ず誰かと繋がって生きてゆく。どんな土地に生まれて、どんな生き方をしたのか、それを覚えていてくれる誰かがいる限り、人は孤独ではない。そしてそれはきっと土地の歴史や記憶にも同じことが言えるかもしれない。どんな人間にも足跡がある。人生の最期を迎えたとき、頭の中に流れてくるだろうエンドロール(走馬灯)に、自分が生きてきた証を証明してくれる縁を繋いだ方々がいるでしょう。自分が死ぬとき、縁のあった方々に、笑顔で感謝してその時を迎える人間でありたい。昨年、この一冊に出会えて本当によかった。読み終えたとき、この一冊に救われたと思った。本書『しらない町』は、前へ進むために背中を押してくれはしない。しかし、そっと寄り添ってくれる作品です。







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