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評者◆伊達政保
奥羽越の原発立地の遠因は戊辰戦争にある――「白河以北一山百文」の政治経済構造は現在に至るまで全く変わってはいない
No.3060 ・ 2012年04月28日




 東日本大震災及び福島第一原発事故から一年が経過した。被災地復興が声高に叫ばれ、原発事故収束宣言が出された。しかし何が変わったのか。地震災害については復興の兆しが見えるが、津波災害については地域の復興計画すら纏まってはいない。原発事故に至っては収束どころか放射能汚染は拡大するばかり。今後の廃炉に至るまでの見通しは、全くたってはいない。避難住民は、展望が全く無い状況に置かれたまま切り捨てられようとしている。一方、復興や震災瓦礫処理などの利権を巡って、被災地そっちのけの議論がまかり通っている。東北の置かれたこうした状況を見て、オイラどうしてもある言葉を思い出してしまうのだ。「白河以北一山百文」。
 明治初年、薩長土政権と奥羽越列藩同盟は覇権を賭けて戦い敗北した。いわゆる戊辰戦争である。以後、明治中央政府は東北地方を「白河以北一山百文」と蔑視し、政治的経済的に差別した政策を行なった。そのような政策に異議を唱え、その言葉から名付けられた新聞が、東北地方の有力紙『河北新報』である。そうした政治経済構造は、現在に至るまで全く変わってはいない。例えば日本の高度経済成長期を支えた労働力はどこからやって来たか。東北の農業を解体することにより、都市に流入した労働者によってではないか。若年労働者を都市に吸い上げ、農業水産業など第一次産業の高齢化をもたらし、一部の地方産業の振興があるとはいえ、地方の疲弊化を促していったのだ。そうした構造によって、原発誘致に頼らざるを得ない地域を生み出していった。
 またそうした地域にはあることが見て取れる。東北すなわち奥羽越地方の原発は、福島第一、第二原発を始めとして、新潟県柏崎刈羽原発、宮城県女川原発、青森県下北半島の六ヶ所再処理施設、東通原発、大間原発(建設中)にある。かつての会津藩、相馬藩、平藩などがあった福島県、伊達藩の宮城県、旧桑名藩の飛地領であった柏崎、旧会津藩が斗南藩として流罪にも等しい形で強制移住させられた下北半島、オイラこれが偶然とはとても思えないのだ。皆かつて明治中央政権から賊軍とされた藩の地域ではないか。仮に原発を押しつけたのではないとしても、その地域が施設を受け入れざるを得ない状況を作り出した遠因は、やはり戊辰戦争にあると考える。
 現在、福島原発の周辺から避難している五万人以上の住民と、下北斗南藩に移住させられた一万七千人のことがどうしてもダブってしまう。また福島県中通りから関東にかけての放射能汚染も深刻な状態となっている。その対策もなしに原発再稼働に邁進する政府を許すことはできないのだ。
(評論家)







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